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読書メモなど

今年読んだ本で振り返る2016年

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大晦日。ぼっーとしていると年が明けてしまうので、その前に、今年1年を振り返っておきたい。

たとえば10年後の自分は、2016年をどんな年として思い出すかと考えると、「トランプが大統領に決まった年」になりそうだ。案外、それに尽きているかも…。

でも、せっかくなのでもうちょっと考えてみる。自分の場合、仕事をしている時間以外は、家でおしゃべりをしているか本を読んでいるかの生活なので、読んだ本を手掛かりに考えるしかない。改めてリストアップしてみると、今年も面白い本がたくさん読んだなと思う。

それらを思い出しながら、2016年を振り返ってみたい。

 

*以下では、今年出た本で、私が読んだものを紹介しています。そのうち、このブログで取り上げたものはリンクを張っています。

 

今年読んだ本で2016年を振り返る

技術と科学のトレンド

まずは、技術と科学の話題から。技術的トレンドとしては、今年は「フィンテック」「VR」「ゲノム編集」がキーワードとして出てきた。どれもわかりやすく「~の衝撃」というタイトルの本が出た(『FinTechの衝撃』(城田 真琴) 、『VRビジネスの衝撃』(新 清士)、『ゲノム編集の衝撃』(NHK「ゲノム編集」取材班))。

しかし、やはり人工知能脳科学の躍進が喧伝された一年だったと思う。ディープラーニングを中心とした技術の解説書は理工書の売上リストのトップを占め続けていたし、「人工知能とは何か」という切り口の概説書も多く出た。人工知能ブームの本質を包括的に解説していた本としては、人工知能が変える仕事の未来』(野村直之)が一番参考になった。『不屈の棋士(大川慎太郎、読書メモ)は、人工知能がいち早く人間のプロフェッションに食い込んできた将棋界の困惑を鮮烈に描いていて、衝撃的だった。人工知能脳科学との関連で語られることも多く、代表例は甘利俊一先生の『脳・心・人工知能読書メモ)。

脳科学単体での新しい動きを知れる本としては、いずれも医者によって書かれた『脳はいかに治癒をもたらすか』(ノーマン・ドイジ、読書メモ)と『〈わたし〉は脳に操られているのか』(エリエザー・スタンバーグ読書メモ)が面白かった。

人文系からの応答

人工知能脳科学は、他の科学・技術と大きく違う点がある。それは、単に生活を便利にしたり病気を治したりするだけでなく、「心」「意識」「責任」「道徳」など、従来科学で扱われてこなかった領域に食い込んでいくことだ。そこで人文学の出番となる。『脳がわかれば心がわかるか』山本貴光吉川浩満読書メモ)は、どんなに科学が「心」についての知識を増やしても人文学で考えるべき領域が残ることを、他書にない平易さで説明している。『情報社会の哲学』大黒岳彦読書メモ)、『大人のためのメディア論講義』石田英敬読書メモ)は、メディア論の視点から、人工知能を考察している。人工知能を、「人に似た機械」というよりも「メディア」とみなす観点が斬新だった。『時間と自由意志』(青山拓央)は、脳科学が侵犯しつつある「自由意志」について、哲学がどこまでたどり着いているかを示してくれる。この本などを読むと、科学者のナイーブな議論には戻れなくなると思う。最後に、脳科学人工知能で扱われる「心」の哲学的立場を整理した本として、私が編集で関わった『物質と意識 原書第3版』(ポール・チャーチランド)も僭越ながら紹介しておきたい。

今年前半には人文学自体の存在意義が問われる流れもあった。国立大学の文系学部縮小の議論に端を発して書かれた『「文系学部廃止」の衝撃』吉見俊哉読書メモ)では、人文学がなぜ「役に立つ」かが述べられていて、目から鱗が落ちた。また、『学術書の編集者』(橘宗吾、読書メモ)でも、文系の学問の意義が、学術書の意義と絡めて論じられていた。大学の学問を「護る」という話になりがちな空気に対して、「大学の外でも学問はできるぜ!」ということを謳った『これからのエリックホッファーのために』(荒木優太)は爽快だった。

日本の行く末と働き方

人工知能ブームは、今の日本の社会や経済とも強く関係している。今年、テレビやラジオで何度も聞いた「人口減少社会」「一億総活躍」「働き方改革」という言葉。要するに、人口が減っていて、経済が縮小していて、それでいて労働力が不足していて、日本の将来が危うい、という話だ。しかし『人口と日本経済』(吉本洋)によると、人口の減少は必ずしも経済の縮小につながらない。重要なのは、労働生産性を高めて、イノベーションを起こすこと。そういう文脈でも期待されているのが人工知能なのだ。人工知能と経済の未来』井上智洋、読書メモ)は、そんな期待と、逆に「職を奪うのではないか」という不安とを、真面目に考えた一冊。今後20年以上日本で生きているつもりの人なら、読んでおいて損はない本だと思う。

社会と仕事というテーマでは、ブラック労働について新しい視点を与えてくれたデスマーチはなぜなくならないのか』(宮地弘子、読書メモ)、近年話題に出すのが厄介になっている感のある「結婚と家族」について、その厄介さの理由が明かしてくれた『結婚と家族のこれから』(筒井淳也)はおすすめ。

一個人としてどう生きるか

技術的トレンドや社会的問題についての大枠をつかんだうえで、一個人としてどう生きるか。また、今年読んだ数少ない小説のうち、『コンビニ人間』村田沙耶香読書メモ)とリップヴァンウィンクルの花嫁』岩井俊二読書メモ)の二冊は、どちらも社会のシステムの違和感を人一倍敏感に感じつつ、それでもそれに適応して生きていく主人公の内面が描かれた作品だった。学問との距離感の取り方についてヒントを与えてくれたのは、『古市くん、社会学を学び直しなさい‼』古市憲寿読書メモ)だった。また"Algorithm to Live By"(Brian Christian,Tom Griffiths、読書メモ)は、コンピュータサイエンスの概念を、日々の生活に当てはめてみせる楽しい本だったが、これからはこういう頭の使い方が大事かも、と思わされた。

科学の純粋な面白さ

科学には、ビジネス的な価値を生むとか、生きづらさを解消するとか、ライフハックとか、そういう「役に立つ」要素が大事なのはもちろんだが、そういう功利とはまったく独立に、純粋な好奇心を動力源として進んでいく科学ももちろんある。たくさんはよめなかったが、『文化進化論』読書メモ)、"QBism"(Hans Christian von Baeyer)、『生命・エネルギー・進化』(ニック・レーン、読書メモ)の3冊は、どれもあっと驚く新アプローチや新説が紹介されていてワクワクした。

 

今年の2冊!

最後に、今年もっとも感銘を受けた2冊の本を発表します。

1冊目は、『精霊の箱』(川添愛)。目先の流行に踊らされすぎず、自分の選んだ学問に向き合うことの尊さを教えてくれた。

2冊目は、"Patient H.M."(Luke Dittrich)。脳科学の歴史のなかのスキャンダルと言ってもよい顛末を緻密に記述した本で、インパクトは強かった。科学者の好奇心を手放しに価値あるものとしてはいけないという戒めとして、来年以降の科学・技術を見ていくうえで重要文献となる一冊だと思う。