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読書メモなど

読書メモ:脳はいかに治癒をもたらすか(ノーマン・ドイジ)

 

脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線

脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線

 

従来であれば「治らない」と診断されるような脳の病気が、嘘のように治ってしまう。しかも、投薬や手術といった普通の仕方ではなく、「運動」や「音楽」や「微弱な電気刺激」を使った一風変わった治療法でーー。本書は、そうした最新の医療の治療法の数々を、一般向けに紹介した1冊だ。

著者は精神科医で、同じような内容の前著『脳は奇跡を起こす』(邦訳は2008年刊)で有名になった人らしい。前著を書いた後、さらに多くの事例を集めるために世界中で取材を続けたそうで、本書には、非伝統的な治療法を実践している医師たちと、それによって回復した患者たちのエピソードがたくさん紹介されている。

ごく一例を挙げると、

  • イメージトレーニングのような方法で、ほとんど目が見えない状態から視力が回復した
  • 意識的に映像を思い浮かべる方法で、事故の後遺症の慢性的な痛みがなくなった
  • 音楽を聴くセラピーで、生まれつきの自閉症の症状が消えた
  • 舌に微弱な電気刺激を与える装置で、脳卒中などで損なわれた認知機能が回復した

など。「こんなことあるのか!?」と疑いたくなる話ばかりで、読み終わった後でもまだ半信半疑の気持ちは拭えない。でも、本書で紹介される事例の多さ(なにせ600ページ近い大著!)に、それがすべて偶然だとか眉唾だとは思わせない説得力がある。

どうしてこんな方法で治るのか、という当然の疑問に対する著者の答えは、脳のもつ「神経可塑性」に尽きている。

たとえば、一つの脳部位が(怪我や手術や脳卒中などで)壊れてしまっても、脳の別の部位がその機能を代替する。あるいは、脳の神経細胞の活動が乱されると、ものごとに集中できなくなったり正しく言葉が発せられなくなったりするが、そうした乱れた脳も、何かのきっかけを与えることでバランスの取れた状態を取り戻すことができる。本書で紹介されている療法は、どれも、そうした「脳のもつ神経可塑性の能力」に働きかけるものだと著者は説明する。そうした治療をまとめて、「神経可塑性療法」と名づけている。

次の疑問として、「ではなぜ、特定の治療法が脳の可塑性を呼び起こすのか?」とか、「実際に脳の中で何がどうなって治るのか?」というところが気になるわけだが、機序についてはまだあまり分かっていないようだ。本書でも、一部の動物実験などの結果をもとにした推測を除いては、具体的な説明はされていない。

ただし、「なぜ効くか」が簡単に説明できないことが、むしろ神経可塑性療法の特徴なのかもしれない。「この細胞にこの薬をこう効かせて…」といった西洋医学的な治療の発想ではなくて、「脳が備えているバランスを活性化する」というアイディアが根本にあるからだ。とはいえ、「こうした治療法がなぜ効くか」についての研究は今後どんどん進んでいくと思う。そうすれば、特殊な医師にかからなくても、日本でもこうした医療を受けられるようになるのかもしれない。

まだまだ脳は分からないことだらけだということを教えてくれると同時に、自分の脳に対して与える刺激にも、(少なくとも食べるものと同じくらいには?)慎重になったほうが良いのかなと思わされる1冊だった。

 

蛇足だが、著者の周りには難病を発する人が多いことに驚いた。

もちろん、自ら治療したり取材したりしているのだから当たり前なのだろうけど、「あとがき」で明かされているエピソードには因縁を何か感じずにはいられなかった。