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読書メモなど

読書メモ:リップヴァンウィンクルの花嫁

 

リップヴァンウィンクルの花嫁

リップヴァンウィンクルの花嫁

 

心から面白いと思える小説に、近ごろ出会えていなかった。

「面白そうだな」と思って読み始めても、なぜか途中でワクワクしなくなってしまう。「なぜそんな台詞を言うの?」とか「なんでそんな展開になってしまうの?」などの突っ込みが頭をもたげてきて、著者と自分の感受性のずれを感じてしまう。そんなことが続いていた。

『リップヴァンウィンクルの花嫁』は、最初から最後まで惹きこまれる小説だった。

映画が公開されて話題になっているので読んでみた。原作が小説として同時に出るというのはあまり聞かない気がするけど、どうなんだろう。(監督自身が脚本を小説にするということ自体が珍しい?)

設定とかプロットだけ見れば、社会派の小説と言えるのかもしれない。多様化した家族観、若者の不安定な労働環境、ブラックビジネス、売春に居場所を見つける女性たち、SNSで作られる即席の人間関係……。

確かにそういう題材が、僕の目から見るととてもディテール豊かに扱われている。けれども、この小説の不思議なところは、それら負の題材にも関わらず全くダークな印象がないことだった。もちろん、後半の非現実的な展開や、物語を動かす役回りの安室という名の人間離れした登場人物の存在が、ファンタジーっぽい印象をつくっているのはある。でもそれだけではなく、小説全体にイノセントな空気感が漂っていて、それが通常「社会の暗部」と呼ばれるような現実を、単なる「不幸」で終わらせないでいてくれる。

主人公は、安室の手の中で踊らされているようでいて、社会の裏側を「知る」ことを通じて、ある種静かな幸福感を手にしていくようにも見える。最近読んだ小説のなかでは一番好ましく、共感のできる主人公だった。