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読書メモなど

読書メモ:生命、エネルギー、進化(ニック・レーン 著)

 

生命、エネルギー、進化

生命、エネルギー、進化

 

先日、木星の惑星エウロパにかんするNASAの発表が話題になった。どうやらエウロパには大量の水があって、それが地表から噴き出しているのだという。専門家のあいだではほぼ分かっていたことみたいだが、とても驚いた。すぐに思い出したのは、アーサー・C・クラークの『2010年宇宙の旅』だった。クラークはこの作品(『2001年~』の続編)で、エウロパにて人類が地球外生命に遭遇する場面を描いている。もちろん、まだエウロパに生命がいると決まったわけではないが、中学生のときに夢中で読んだSF小説のシナリオがこれほど現実味を帯びる日がくるとは思わなかった。

誰しも気になるのは、エウロパにはどんな生命が存在しうるのか、ということだろう。DNAに相当する遺伝物質はあるのだろうか。「細胞」に類する構造を持つのだろうか。「神経系」はどうだろうか。こうしたことは、地球上の生命とその進化の過程について分かっていることから推測するしかない。太陽系内の地球外生命に意外と早く出会えるかもしれない機運が出てきたことで、「生命とは何か?」や「地球上の生命はどうやって進化してきたのか?」などの問いが、新しい重要性を持ってくる。

本書『生命、エネルギー、進化』の原題は"The Vital Question: Why is Life the Way it is?"である。この、「生命はなぜこのようなあり方をしているのか?」という問いは、地球外惑星で進化している(かもしれない)生命の可能性を考えるうえでも、まさに「核心的な問い」となる。

けれども、この問いに答えようとするときに注意すべきことがある。それは、「何を説明すべきか」が自明ではないということだ。生命進化のシナリオ――原始的な地球で有機物が合成されて、RNA-DNA-たんぱく質からなるシステムが自己複製の能力を獲得し、複雑な細胞ができ、多細胞化し、高度な知能をもつ人間にまで進化するにいたったシナリオ――のうち、どこまでが何かの原理から説明可能な部分で、どこは「偶然」としか言えない部分なのかの線引きは難しい。思うに、この線引きについていろんな立場がありうるために、「進化シナリオから生命の本質を探る」を扱った本に様々なバリエーションが出てくるのだろう。

本書はそうした本の一つだが、そのなかでもレベルが高めで、非専門家には思いつかないような、わりとマニアックな目のつけどころで書かれている。著者は、生命の本質にかかわる謎として、下記のようなものを挙げている。

  • なぜ真核生物は複雑に進化したのに対して、原核生物(細菌と古細菌)は単純な単細胞生物にとどまったのか
  • なぜ真核生物は必ず有性生殖するのか・なぜ性はいつも二つなのか
  • なぜ複雑な生物はすべてアポトーシス(細胞死)のメカニズムを備えているのか

著者は、これらの問いに関しては物理法則などの原理による説明が可能だと考え、自身の仮説を披露している。一方、たとえば原核生物が「細菌」と「古細菌」という大きく異なる二つのグループに分かれたことなどは、「歴史上1回だけ起こったこと」として偶然のカテゴリーに入れている。

これらの問いの解決のために著者は「エネルギー」の観点を持ち出す。生物はたんぱく質をつくったり、DNAを複写したりするためにエネルギーを外から得る必要がある。このエネルギーの確保が進化のプロセスを制約する主要因になっている、というのが、本書を貫く視点となっている。

たとえば、真核生物だけが複雑に進化できた理由は、遺伝子を維持するために必要なエネルギーには限りがあるが、核をつくったことによりその制約から解放されたことだという。性や細胞死に関する議論も面白かった。性が必ず二つである理由は、「ミトコンドリアを継承する配偶子(卵子)と、継承しない配偶子(精子)」に分けるのが進化上有利に働いたからではないかという。

ただし個別の議論の詳細はややこしく、 訳者あとがきにも書いてあるように、「生化学についての基礎的な知識がないと細部まで理解することは難しい」本になっている。また、著者の主張を裏付けるシミュレーションも、ストーリーがややこしいうえに、結果(二つの性が有利に働くという結果など)もパラメータにかなり依存するようなので、直感的な理解ができないという難点があった。

とはいえ、「生命とは?」や「どう進化したか?」を考えるときにどんな頭の使い方をしないといけないかがよくわかる一冊だった。