重ね描き日記(rmaruy_blogあらため)

読書メモ、探究メモなど。

今年読んだ本で振り返る2018年

2018年もあと2日。 個人的には、今年は仕事で少しだけ手ごたえを得られた一年だった。今年は、企画・編集で下記7冊の本に関わった: 『QBism』、H. C. フォン・バイヤー(著) 、 木村元 (解説)、松浦俊輔 (訳) 『Coq/SSReflect/MathCompによる定理証明…

どんな問いが人を研究に駆り立てるのか(ケース:9年前の自分の場合)

私が常に興味があることに一つに、「研究者がどんなモチベーションで研究に向かっているのか」というのがある。何かの「専門」をもつ人と話すとき、「なぜその分野を選んだんですか?」と必ず聞いてしまう。相手がその道四十年の教授であっても、研究室に配…

新刊紹介メモ:ブラックホールと時空の方程式(小林晋平 著)…【編集担当による紹介】

ブラックホールと時空の方程式:15歳からの一般相対論 作者: 小林晋平 出版社/メーカー: 森北出版 発売日: 2018/12/12 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (2件) を見る 私は大学では主に物理学を学んだのだが、「一般相対論」は4年間のカリキュラムの最…

読書メモ:機械カニバリズム(久保明教 著)…「AIは人間を超えるか」談義をそろそろやめるべき理由

機械カニバリズム 人間なきあとの人類学へ (講談社選書メチエ) 作者: 久保明教 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2018/09/12 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログ (1件) を見る 人工知能ブームが終わりかけている。 AI関連本を何冊か企画…

読書メモ:Lost Connections(by Johann Hari)…うつ病は「つながりの病」である

Lost Connections: Why You're Depressed and How to Find Hope 作者: Johann Hari 出版社/メーカー: Bloomsbury Publishing PLC 発売日: 2018/01/11 メディア: ペーパーバック この商品を含むブログを見る 「自分は決してうつ病にならない」と、自信をもっ…

思考整理メモ:フィリピン人技能実習生との思い出と、入管法改正案についての感想

ここ数週間、「入管法改正案」のニュースが多く耳に入ってくる。 外国人に対する在留資格を増やし、おもに介護・農業・建築・飲食業などの分野で外国人労働者を受け入れるための制度だという。 自民党や政府は、人手不足が深刻な産業界のニーズに応えるため…

読書メモ:「人工知能」前夜(杉本舞 著)…本気の科学史からAIを考える

「人工知能」前夜 作者: 杉本舞 出版社/メーカー: 青土社 発売日: 2018/10/19 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 1940~1960年代の計算機科学と人工知能の研究史をたどった一冊。著者の杉本舞氏は20世紀の科学技術史、とくに1930~1950年代のコン…

読書メモ:Mind-Body Problems (by John Horgan)…心身問題はなぜ人生の問題になるのか?

Mind-Body Problems: Science, Subjectivity & Who We Really Are (English Edition) 作者: John Horgan 発売日: 2018/09/05 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 『サイエンティフィック・アメリカン』誌のライターとして有名な、ジョン・ホーガ…

探究メモ:脳科学は記憶の仕組みをどこまで解明したのか〈番外編3:物理学にとって記憶とは何か〉

(追記)本記事公開後、ベルクソン研究者の平井靖史先生と議論をさせていただきました。平井先生のブログもぜひご覧ください。 過去の保存問題hiraiya.wordpress.com === 「探究メモ:脳科学は記憶の仕組みをどこまで解明したのか」シリーズ、「番外編そ…

近刊紹介メモ:脳と時間(ディーン・ブオノマーノ 著、村上郁也 訳)…【編集担当による紹介文】

脳と時間: 神経科学と物理学で解き明かす〈時間〉の謎 作者: ディーン・ブオノマーノ,村上郁也 出版社/メーカー: 森北出版 発売日: 2018/10/10 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る ひょっとすると、来年から「サマータイム」が導入されるかもしれ…

【再掲】読書メモ:ホモ・デウス(ユヴァル・ノア・ハラリ著)…人間イズムの危機

ホモ・デウス 上: テクノロジーとサピエンスの未来 作者: ユヴァル・ノア・ハラリ,柴田裕之 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2018/09/05 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (2件) を見る ホモ・デウス 下: テクノロジーとサピエンスの未来 作者:…

読書メモ:暇と退屈の倫理学 [増補新版](國分功一郎 著)…のふわっとした感想

暇と退屈の倫理学 増補新版 (homo Viator) 作者: 國分功一郎 出版社/メーカー: 太田出版 発売日: 2015/03/07 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (42件) を見る 初版が出たのが2011年。出版社を変えて新版が出たのが2015年。「暇と退屈」と「倫理学」と…

読書メモ:文系と理系はなぜ分かれたのか(隠岐さや香 著)

文系と理系はなぜ分かれたのか (星海社新書) 作者: 隠岐さや香 出版社/メーカー: 星海社 発売日: 2018/08/26 メディア: 新書 この商品を含むブログ (2件) を見る なぜだか知らないけれど、僕らは人を文系と理系に分ける。僕の父は理系で母は文系。僕自身は…

読書メモ:Lost in Math(by Sabine Hossenfelder)……美の追求が、物理学を袋小路に追い込んだのか?

Lost in Math: How Beauty Leads Physics Astray 作者: Sabine Hossenfelder 出版社/メーカー: Basic Books 発売日: 2018/06/12 メディア: ハードカバー この商品を含むブログを見る 直訳に近い日本語のタイトルをつけるとしたら、『数学に迷い込んで――美の…

探究メモ:脳科学は記憶の仕組みをどこまで解明したのか〈番外編2:論文紹介 Science 2018, Tanaka et al.〉

久しぶりの、「探求メモ:脳科学は記憶の仕組みをどこまで解明したのか」シリーズです。 過去の記事はこちら: 探究メモ:脳科学は記憶の仕組みをどこまで明らかにしたのか〈第8回(最終回):まとめ〉 - rmaruy_blog 探究メモ:脳科学は記憶の仕組みをどこ…

読書メモ:人間の解剖はサルの解剖のための鍵である(吉川浩満 著)

人間の解剖はサルの解剖のための鍵である 作者: 吉川浩満 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2018/07/19 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (2件) を見る 在野の著述家として活躍する吉川浩満さんが、ここ数年さまざまな媒体で発表してきた文章を…

読書メモ(再掲): 心と体をゆたかにするマインドエクササイズの証明(ダニエル・ゴールマン&リチャード・デビッドソン著)

心と体をゆたかにするマインドエクササイズの証明 (フェニックスシリーズ) 作者: ダニエル・ゴールマン,リチャード・J・デビッドソン,藤田美菜子 出版社/メーカー: パンローリング株式会社 発売日: 2018/07/15 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を…

読書メモ:記憶をめぐる人文学(アン・ホワイトヘッド 著、三村尚央 訳)

本ブログでは、折に触れて「記憶の脳科学」を扱ってきた。 脳科学は記憶の仕組みをどこまで明らかにしたのか? 記憶を「書き換える」技術は、もうすぐ実現されるのか? そんな素朴な疑問から出発して、連載ブログを書いたのが1年と少し前。 そのときにたどり…

読書メモ: あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠(キャシー・オニール著)

あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠 作者: キャシー・オニール,久保尚子 出版社/メーカー: インターシフト 発売日: 2018/06/18 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る 原書タイトルは"Weapons of Math Destruction"。 「…

読書メモ:「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明(伊神満 著)

「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明 作者: 伊神満 出版社/メーカー: 日経BP社 発売日: 2018/05/24 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 経済学者による、経済学研究の入門書。クレイトン・クリステンセンの「イノベーターのジレンマ」を、経…

読書メモ:トラウマをめぐる3冊(ピーター・ラヴィーン著、ベッセル・ヴァン・デア・コーク著、宮地尚子 著)+中井久夫【追記】

「トラウマ」にまつわる本を3冊読んだ。 最初の2冊は、トラウマ治療に長年関わってきたアメリカの臨床医が、トラウマについての科学的知識とその治療法を解説した本。いずれも、脳だけでなく「身体」の記憶という視点を重視している。3冊目の岩波新書は、「…

読書メモ:地球にちりばめられて(多和田葉子)

地球にちりばめられて 作者: 多和田葉子 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2018/04/26 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る 面白かった。 以下は、印象をとどめておくためのメモ。 * 舞台はヨーロッパ。多国籍の若者たちが出会い、意図せず…

思考整理メモ:理工書の「良い企画」についての考察

2018年のゴールデンウィーク最終日。 連休中にあれこれ考えていたことを、文章に残しておきたい。 考えていたのは、理工書の「良い企画」とは何か、について。 ※以下、主に備忘録用の、自分の仕事についてのちょっとしたメモです。多くの人には関係がないう…

読書メモ:英米哲学入門(一ノ瀬正樹 著)

英米哲学入門 (ちくま新書) 作者: 一ノ瀬正樹 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2018/04/06 メディア: 新書 この商品を含むブログ (1件) を見る 副題の『「である」と「べき」の交差する世界』に惹かれて買った。 「である」と「べき」の線引き問題につい…

読書メモ:数学がいまの数学になるまで(Zvi Artstein著)

数学がいまの数学になるまで 作者: Zvi Artstein,落合卓四郎,植野義明 出版社/メーカー: 丸善出版 発売日: 2018/03/30 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログを見る 人生で何度か、「数学は好き?」と聞かれたことがある。 そのたび、困っ…

読書メモ(再掲):知ってるつもり――無知の科学(S. スローマン & P. ファーンバック)

知ってるつもり――無知の科学 作者: スティーブンスローマン,フィリップファーンバック,土方奈美 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2018/04/04 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログを見る ちょうど一年前に読んだ"The Knowledge Illusio…

読書メモ:数学セミナー(2018年4月号)…人はなぜ数学するのか?

数学セミナー 2018年 04 月号 [雑誌] 出版社/メーカー: 日本評論社 発売日: 2018/03/12 メディア: 雑誌 この商品を含むブログ (1件) を見る 今回は雑誌の感想です。 『数学セミナー』の最新号、特集テーマが「なぜ数学を学ぶのか」。 自分で数学をするよりも…

読書メモ:The Elephant in the Brain(Kevin Simler & Robin Hanson)

The Elephant in the Brain: Hidden Motives in Everyday Life 作者: Kevin Simler,Robin Hanson 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr 発売日: 2018/01/02 メディア: ハードカバー この商品を含むブログを見る 最近邦訳が出た『全脳エミュレーションの時代』の…

読書メモ:Enlightenment Now (Steven Pinker)

Enlightenment Now: The Case for Reason, Science, Humanism, and Progress 作者: Steven Pinker 出版社/メーカー: Viking 発売日: 2018/02/13 メディア: ペーパーバック この商品を含むブログを見る 昨年から出る出ると話題になっていた、スティーブン・ピ…

読書メモ:工学部ヒラノ教授の終活大作戦(今野浩 著)

工学部ヒラノ教授の終活大作戦 作者: 今野浩 出版社/メーカー: 青土社 発売日: 2018/01/26 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログを見る 2013年に『工学部ヒラノ名誉教授の告白』を読んだとき、私は少し焦った。いつものようにユーモアたっ…