重ね描き日記(rmaruy_blogあらため)

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読書メモ:数学の大統一に挑む

 

数学の大統一に挑む

数学の大統一に挑む

 

ロシア出身でアメリカ在住の数学者であるエドワード・フランケル氏が、自身の研究テーマについて、自伝的なエピソードも交えて解説した啓蒙書。「数学の大統一」という書名に惹かれて衝動買いした。

「数学の統一」とはどういうことなのか。「統一理論」は物理では良く聞く言葉だが、数学にもそんなものがあるというのだろうか。

本書では、「数学の大統一」の意味するところを理解させようと、あの手この手が尽くされている。初等的な数学を用いたり日常的な比喩を用いたりして、かなり親切に書かれているのだとは思うが、それでも正直難しい。相当専門的な勉強をした人でも、本書の議論を全て追うことは難しいのではないだろうかと思う。僕の理解度も20%くらいなので、本書のいう「数学の大統一」の意味を説明することなど到底できない。それでも、次のような大枠はつかむことができた。

  • 数学の別々の分野に属する概念の間に、思わぬ対応関係が見つかることがある。
  • そうした対応関係は「予想」として知られるようになり、やがて誰かが証明したりする
  • ある種の予想群に関する研究が、「ラングランズ・プログラム」の名の下に行われている。
  • ラングランズ・プログラムは、当初は主に数論と解析学の間の対応関係についてのものだったが、著者らはさらに幾何学との対応関係までに広げている。
  • ラングランズ・プログラムで見られるのと類似の構造(「双対性」?)が、理論物理学の中にも見られる。そのため、最近ではラングランズ・プロジェクトは理論物理学者の間でもホットなテーマとなっている。

数論・解析・幾何・代数などの数学の諸分野、さらには数学と自然法則を記述する物理学の間に、“数学的に同じもの”が登場することがある。そのことは、背後に何か共通の構造が存在することを示唆する。共通構造が実在するという仮説のもと、現代の数学者・物理学者たちはその解明に挑んでいる。具体性の全くない説明になってしまったが、ものすごく単純化すれば、そういうことになるだろうか。「数学が一つであるかもしれない」とは、とてもワクワクする考え方だ。

なお、フランケル氏が最初に手がけた研究は、「ブレイド群」と呼ばれる代数構造についてだったらしい。ブレイド群には、数論のある問題との間に対応関係をもつという興味深い性質があり、これはちょうど「異分野間の思いがけない符合」の一つのケースとなっていた。そして、この研究をきっかけに、著者はラングランズ・プログラムをライフワークとすることになっていったそうだ。

それにしても、このフランケル氏の秀才ぶりは凄い。ユダヤ人の親をもつことを理由に大学を入学拒否されるなどの逆境をはねのけ、当時のソ連の一流の数学者に師事することに成功する。19歳ですでに世界的な業績を出し、21歳のときには研究業績を認めれてハーバード大学に招聘されている。その後も世界的な数学者・物理学者(エドワード・ウィッテンなど)と共同研究を行い、次々と業績を出している。

こんな超一流の数学者が、本書のような啓蒙書を書いてくれるのはとてもありがたい。じゃなかったら、「ラングランズ・プログラム」のことなんて全く知らずに終わっていただろうから。

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ちなみに、原題は“Love and Math: The Heart of Hidden Reality”である。副題の中のHidden Realityは、異なる数学や物理の分野同士の対応関係を生み出す「隠れた実在」のことだが、この正体がいったい何なのかが、素人的に一番気になるところだ。著者は数学者らしく、プラトン的な意見を表明している。つまり、人間のおよび知らない「数学的実在」があり、それを少しずつ明らかにしていくのが数学なのだという立場だ。

一方、僕としてはどうしても「脳」の中にhidden realityの一端があるのではないかと思ってしまう。もちろん「脳が数学を生み出す」とまでは言わない。でも、脳の中にも、数学同士(あるいは数学と物理的世界)がつながってしまうことを反映する何らかの対応物があって、それを研究することが「不可解な結びつき」を解きほぐすヒントになるのではないか。そんな直観をもって研究している人がいないか、調べてみたい。