重ね描き日記(rmaruy_blogあらため)

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(簡易的)読書メモ:文学問題(F+f)+(山本貴光 著)

 

文学問題(F+f)+

文学問題(F+f)+

 

以下は、とある会合の「おすすめの本の紹介文」として書いた文章。初読の印象だけの感想なのですが、記録のためにここにも載せておきます。

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ゲーム作家でありながら、近年は著述家としての活躍がめざましい山本貴光さんの新刊。ユニークな本を次々と出されている山本さんですが、今回も夏目漱石の『文学論』を解説するという一風変わった本。前半部で『文学論』を“現代語訳”しつつ解説し、後半部で『文学論』の現代版へのアップデートを試みるという内容になっています。

なぜいま漱石? それも『文学論』? と思うわけですが、漱石の文学論そのものを研究するというよりは、自分の頭でゼロから考えようとした漱石の思考プロセスを辿りなおすことに著者の狙いがありそうです。漱石は『吾輩は猫である』や『草枕』と同時期に文学論を構想しており、「文学とは何か」とか「どういう要素があれば“良い文学”と言えるのか」についての「理論」を、先行研究も存在しないところから作ろうとしていたようなのです。文学研究者ではない著者が徒手空拳、こんな本を書いたしまった意図も、そんな漱石の心意気に学び、古今の文学を自分なりに理解するための(漱石の言葉で言えば「自己本位」の)探究をやってみようというところにあったのだろうと思います。

文学以外ではなくても何らかの文章の執筆・編集に関わる人ならきっと得るものがあると思います。私自身、理工書を編集しながら「理工書は科学にとってどんな存在なのか?」「よい理工書の条件は何か?」などを自分なりに考えてみたくなりました。

…それにしても傍注と参考文献の数が夥しく、編集の労力に頭がさがる(!)とともに、著者の読書量に圧倒される一冊でした。