渋谷のイメージフォーラムで『牡蠣工場(かきこうば)』を見てきた。
瀬戸内海に面した町での、牡蠣の養殖業を舞台にしたドキュメンタリー映画。
牡蠣工場というのは、収穫した牡蠣の殻を剥く作業場のことで、多くのシーンがここで撮られている。殻は硬そうで、ナイフをねじ込む作業は簡単ではなさそうだった。
何も説明もなく淡々と映像が流れるだけの映画なのだが、目を離せない面白さがあった。牡蠣を引き上げて、工場に運んで、殻を剥いて、バットに入れて出荷する、という一連の流れを見るのはそれだけで楽しかった。
映画の終盤のハイライトとして、二人の中国人がやってくるシーンがある。人手不足を補うために受け入れている外国人労働者だ。プレハブの住居を用意して(62万円で購入して)彼らを迎え、言葉が通じないなりに仕事を教えていく。
このシーンは、7年前の個人的な経験と重なった。
大学の夏休みを利用して、高原野菜の農家で一ヶ月の住み込みアルバイトをしたとき、一緒に仕事をしていたのは2人のフィリピン人の技能研修生だった(トニーさんとマックスさんという名前だった)。
ほぼ「はい」「ありがとうございます」「わかりました」だけの日本語で乗り切り、指示が分からないときはせめて愛想笑いをして好意を示そうとし、その分、自分たちの間では大声の自国語で盛り上がる。『牡蠣工場』の中国人たちは、7年前の高原野菜農家のフィリピン人たちの姿と同じに思えた。
そのことの良い悪いは別にして、きっと、日本中にある光景なのだろうと思う。なのにこの7年間、少なくともテレビのドキュメンタリー等では目にすることはなかった。
当たり前の光景を写すことの難しさはあるのだと思う。この映画に写っている人々も、自分の生活が渋谷や全国の映画館で流されていることについてどう思うんだろう。とか考えると、ぎりぎりの凄いことをやっている映画に思えてくる。
第一次産業で働く人々の生活を2,3時間観て映画館を出たとき、自分の都会暮らしがふわっとして軽いものに感じられた。