重ね描き日記(rmaruy_blogあらため)

読書メモ、探究メモなど。

発掘アーカイブメモ:「物流倉庫業における日雇派遣労働」(2010年ゼミレポート)

10年前、大学4年生のときに書いたレポートが出てきたので、アーカイブの意味を込めてブログ記事として掲載します。

労働経済学の先生が主催するゼミのレポート。「神経細胞の数理モデリング」についての卒論執筆の傍ら、倉庫バイトと国会図書館に通い、取り組みました。

いまだに量販店の陳列棚を見ると、倉庫で10時間以上、もくもくと体を動かし続けるジャージ姿のおじさんたちの姿が脳裏をよぎります。

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物流倉庫業における日雇派遣労働

2010年1月31日  丸山隆一

 

1. 始めに・問題意識

スーパーやドラッグストア、衣料専門店に並ぶ安くて豊富な商品を見れば、今いかに私たちが物質的に豊かな時代に生きているかということを実感する。しかし反面、今の日本は「国民に豊かさの実感はなく、格差は広がり、若者が希望を持て」ず、「やりきれない閉塞感」(朝日新聞09/12/31社説)が漂う社会だとされる。物が溢れる一方で、人々が豊かさの実感を持てないというのはどういうことなのだろう。昨年の夏休みに物流倉庫で働いた体験では、そうした社会のからくりの一局面を垣間見ることができたように思う。そこは大手のホームセンター向けの物流センターであり、巨大な倉庫の中では朝から晩までベルトコンベヤがペットフードや食品、日用雑貨品を流し続けていた。そして、倉庫内で働く人の半分くらいが日雇の派遣スタッフだった。

制服を着た正社員に混じって、Tシャツ姿の派遣スタッフが倉庫業務に当たる光景は驚きだった。しかし、派遣労働は昔からあった働き方ではなく、物流業務に関しては1999年の法改正によって初めて可能になったものだ。それ以前にも物流業務は営まれていたのだから、その時期に業務内容の側にも変化があったのではないかと考えられる。思ってみれば、一消費者の感覚として、ここ10~20年の間に日本の流通は大きく姿を変えている。10年前にはこれほど多くのコンビニや専門チェーン店はなかったし、郊外型の巨大ショッピングセンターの多くがオープンしたのもここ数年のことだ。こう考えると、物流倉庫で多くの派遣スタッフが働く現状と、社会の中での大きな流通構造の変化との間に関係がありそうだ。

豊富で途切れない商品をそろえたコンビニ、スーパー、ホームセンター、ドラッグストアなど小売業の現在の姿は、短期雇用の派遣労働者の登場と切り離せないのではないか。このような直感のもと、本レポートでは、物流倉庫業と派遣労働の関係が社会の変化の中でどのように生まれてきたかについて調べることにした。その中で、一消費者あるいは一労働者としての自分の生活と、社会とのつながりを考える契機としたいと考えた。

まず2節ではここ数年の流通の変化について文献を元に簡単まとめる。3節で物流倉庫の業務と、派遣スタッフの作業内容について筆者の体験も交えて述べる。4節では、人材派遣事業と物流倉庫業の結びつきについて調べる。5節で簡単な考察を試み、6節では最近の動きと今後の展望について見ていくことにする。

2. 流通の変化

物流倉庫がなぜ今あるような形で存在するのかを考えるために、まずここでは物流の役割と、近年の流通構造の変化について見ていきたい。

2.1 物流とは

物流とは生活に必要な商品を生産者から消費者へ届ける過程のうち、商取引ではなく、物の移動に関わる部分のことを言う。物流の基本的な役割は、商品の輸送・保管・荷役(トラックからの積み下ろしなど、輸送と保管をつなぐ作業)・包装であるとされる。江戸時代から第二次世界大戦にかけて、日本でこの物流機能を担ってきたのは、卸売業者(問屋とも呼ばれる)であった。卸売業者は複数の生産者から商品を買い取り、保管、輸送し、また複数の小売業に売却する。このような卸売業を介した物流の形態は、生産者と小売業全体の取引数を最小にすることから、効率が良いと考えられてきた。商品の生産、中間流通、販売という流通の過程はメーカー、卸売業者、小売業者の三者によって、ある程度独立に担われてきた。しかし後に述べるように、近年では流通構造が変化し、この流通の流れを小売業者が垂直的に管理するようになってきた。

2.2 近年の流通構造の変化

歴史の流れの中で、流通を担う主体や流通の構造はさまざまに姿を変えてきた。しかし日本のここ20年くらいは特にその変化が大きかった。『近代日本流通史』第八章「消費不況と流通の将来」では、近年の流通構造の変化を以下のように説明している。

日本の流通構造はここ20年の間に大きくその姿を変えた。その背景には1)消費者の変化、および2)流通に関する規制緩和があった。変化の内容の大きなものとしては、a)チェーン小売業者への主導権の移行と、b)さまざまな流通革新が起こったこと、が挙げられる。

90年代以降、日本では経済格差の拡大や雇用不安に起因した将来に対する漠然とした不安感から、消費が低迷した。それとともに、1990年代には流通に関わる規制緩和政策がとられた。米穀や酒類の免許制の緩和やガソリンスタンドの出店自由化やセルフサービスによる販売の解禁、化粧品に対する再販制度用除外など、販売活動が自由に出来るようになった。こうした政策には1980年代から対米輸出の増加による貿易の不均衡が問題視され、89年の日米構造協議での日本国内の流通規制への批判を受けたことなどが背景にあった。特に、2000年には大型店の出店を規制した大規模小売店法(大店法)が廃止された。

消費低迷と流通の規制緩和は、流通業の競争激化と、価格破壊をもたらした。衣料、食品、家電などの各分野で、低コスト製品の海外調達によって低価格で商品を売るディスカウントストアが成長した。こうしたディスカウントストアや総合スーパーは、出店の規制緩和を背景に、大型店の出店を進めた。図1にここ20年での小売店の規模の変化を示す。ここでは年間総販売額に占める、大型店(従業員10名以上)と小型店(従業員9名以下)の割合の推移を示している。1985年には9名以下の小型店による売上げが半分以上を占めていたのが、2004年では逆に10名以上の大型店の割合が66.6%になっている。すなわち1985年から2004年にかけて、小売店舗の大型化が進んでいることが分かる。

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図1:小売業の規模による、年間販売額に占める割合の推移

大型店の出店はまた、商店街や市街地の中小規模の小売業を廃業に追い込んだ。2002年に廃業した小売業事業所のうち49.8%が従業員数2人以下の零細小売業であったのに対し、従業員20人以上の大型店は4.0%にしか満たなかった。このような規制緩和政策の負の面に関して『近代日本流通史』の著者は

80年代後半から進展した流通規制緩和は、対外圧力と競争市場における淘汰の実態を事後的に追認した政策展開であったと言わざるを得ない。〔中略〕規制緩和ア・プリオリに前提とする思想の背後には、市場原理主義的なアメリカナイゼーションの無批判な受容があった。

と評価している。

このような不況化での規制緩和は、小売業者の影響力を相対的に強くした。小売業がメーカーに自社向けの商品を作らせ、プライベートブランドとして販売するようになった。またメーカーが希望小売価格を設定する「建値制」が崩れ、小売店自らが値段を設定するようになるなど、価格決定権や商品開発の主導権がメーカーから小売業者に移ってきている。

またチェーン店舗を拡大した小売業者によって、低コストで流通を行うための数々の革新が行われた。物流拠点の集約化や、ベルトコンベヤや自動倉庫などの機械化(マテリアル・ハンドリング・システム)、および情報システムの効率化が進んだ。1985年にはイトーヨーカ堂で初めてPOS(販売時点情報管理システム)が全店舗のレジに導入され、店舗での販売情報が一品目単位で管理されるようになった。

小売業がメーカーへの影響力を強め、技術革新を通じて情報の面でも優位に立つようになると、「メーカー→卸→小売」という流通の流れを、小売業者が垂直的に管理するようになった。セブンイレブンは中間流通業者を取りまとめて共同配送システムを構築し、異なるメーカーの商品を同じトラックで配送できるようにした。また、小売業者が自らの子会社に物流センターを持つケースや、物流を一括して外部委託する3PL(third party logistics)が一般的になった。この3PL事業へは、大手運輸会社(日本通運、センコーなど)や卸売業者(国分など)、商社(伊藤忠食品など)、メーカーの物流子会社(日立物流など)が乗り出している(表1)。3PL市場は2000年頃から急成長を続け、2008年の3PL事業の市場規模は1兆円を超えたと言われる(Logi-biz 2009年9月号)。このように小売業者向けに物流を一括して効率化を図る流れは、中小の卸売業にとっては逆風となっており、中卸売業の年間売上げは1991を境に減少を続けている。

 

表1:2008年度3PL売上高ランキング(Logi-biz 2009年9月号より) f:id:rmaruy:20200912212418p:plain

3. 物流倉庫の業務

3.1 物流倉庫の業務内容

流通の中で、物流倉庫はその要となる。物流倉庫はさまざまな産業の事業者によって、それぞれにを運営されている。その役割は、多くの種類の商品を供給者から荷受けし、配送することであるが、倉庫によっては、仕分け、在庫保管、流通加工など多様な機能を担う。国土交通省の報告書によると、製造業、道路貨物運送業倉庫業、運輸に附帯するサービス業、卸売業、小売業の6業種の「輸送センター・配送センター・これらの車庫」を「物流施設」と定義し、その数は全国で36700件に上るとされる。

前節で見たような流通の変化に伴って、物流センターの機能も高度化してきた。1970年代から、大規模小売チェーンは、店舗の豊富な品揃えを実現するために通過型物流センター(Transfer Center :TC)と呼ばれる物流センターを建設した。TCには異なるメーカーの商品が一時的に運び込まれ、チェーンの各店舗へ発注数に合わせて配送される。TCからの一括配送により、各店舗へ配送するトラックの便数を少なくすることができる。また90年代からは、商品の在庫機能も併せた在庫型物流センター(Distribution Center :DC)が一般的になった。DCでは、回転率の低い商品が在庫され、発注に応じて単品単位で各店舗へ出荷される。TCやDCの運営は、多くの場合、前述の3PLによって担われている。

TC・DCには、高度な物流サービスが要求される。発注から納品までの時間(=リードタイム)の短縮が求められ、遅くとも翌日納品、最近では当日納品も一般的になってきている。多種の商品をひとつの倉庫で扱い、単品単位の発注に短いリードタイムで対応するためには、柔軟な労務管理長時間労働が必要になるとされる(Logi-biz 2009年8月号)。

チェーン小売業者に加えて、ネット販売もこのような物流センター機能の高度化によって近年成長を続けている小売形態である。オンライン書店大手のアマゾンジャパンは、2000年に日本で書籍のインターネット販売を開始した。現在は全国3か所(市川、八千代、堺)に配送センターを持ち、これらのセンターに在庫のある商品ならば、購入者がネットの画面上で購入の「クリック」をしてから1~3日で手元に商品を届くシステムを築いている。しかも1500円以上の購入に対しては、無料配送を行っている。この配送業務は大手陸運会社の日本通運が請け負っている。配送センター内で、注文を受けてから在庫の中から商品を探す作業(ピッキング)は人の手で行われている。『アマゾン・ドット・コムの光と影』によると、2004年の著者の見聞によれば、市川の配送センターでは約100万点の商品がのべ10,000㎡の倉庫に在庫されており、400人のアルバイトが日々入荷・出荷作業に当たっていた。アルバイトの時給は900円で、時間当たりのピッキングの商品数に関して、厳しいノルマが強いられると言う。アマゾンジャパンは、2009年10月に大阪府堺に3か所目の配送センターの開業したのを機に、一律500円の追加料金で当日中に商品を届ける「当日お急ぎ便」のサービスを開始した。

このように、物流センターの大規模化・高度化によって、消費者にとってはますます便利なサービスが実現されていく。

3.2 茨城県水海道市3PL物流センターの例

ここでは、物流センターの業務とそこで働く派遣労働者の作業内容の一例として、大手S物流会社の一物流センターを取り上げてみたい。

この物流センターは茨城県の県南、鬼怒川のほとりに位置する。田園風景が広がる静かな土地柄だが、常磐高速道のインターチェンジが近いために、近年この地区では工場や倉庫、住宅地の開発が進んでいる。この物流センターは、敷地面積50,000㎡で、2003年に大手ホームセンターの3PL物流センターとして開業した。前述のTC機能とDC機能の両方を兼ね備えている。千葉県に既設の第1センターと合わせ、宮城県から関東、中部、滋賀県までの全170店舗に商品を配送・供給している。

この倉庫は日曜以外の週6日で稼動している。始業は通常は朝の9時からだが、その日の出荷量によっては7時から稼動し始めることもある。仕事の終了時刻は深夜0時を回ることも珍しくないと言う。

その日の出荷量はケース単位で数えられる。ペットボトル6本詰めの箱も一ケース、冷蔵庫一台も同じ一ケースである。朝礼の際に、全員の前でその日の取扱ケース数が知らされる。2万ケースくらいの日もあれば、年末の繁忙期には11万ケースということもあった。このように、日々の取り扱い量には数倍のバラツキがあり、それに応じて派遣スタッフの数も多かったり少なかったりした。

この物流センターは常時、複数の人材派遣会社からの派遣社員を受け入れている。朝の朝礼とラジオ体操が終わると、会社ごとの人数確認が行われる。少なくとも、4、5社から派遣が来ているようであった。その中でも、いくつかの人材会社からの社員は、この物流センターの社員と同じくらいの役割を任されていた。反対に、人数が最も多いF人材派遣会社からの派遣社員は、日雇的な雇用であり、毎回メンバーが違っている。常時雇用の派遣スタッフはレギュラー派遣、日雇の派遣はスポット派遣と呼ばれる。しかし、スポット派遣の中にも高い頻度でこの物流倉庫へ来ており、社員とも顔なじみになって他の派遣社員を指導する立場に立つような人もいた。このように同じ派遣スタッフでも、派遣元の会社や職場での経歴により責任や任される役割に違いがあった。

倉庫内は広く、まずはうず高く詰まれた荷物と、ベルトコンベヤを始めとする巨大な装置の数々に圧倒される。荷物はパレットに積まれ、倉庫内の移動は基本的にはフォークリフトか自動の移動棚によって行われる。また出荷用の荷物は、すべてベルトコンベアの上を流れ、バーコード・ラベルによって自動的に行き先の各店舗ごとに仕分けされるようになっている。このように倉庫内は極めて合理化されている。

しかし、それでも依然として人力での作業が少なからず残されている。以下、人の手で行われる倉庫内作業を挙げる(図2参照):

  • 海上コンテナおよび入荷用トラックからの荷降ろし:荷物の多くは、原産地である中国などで海上コンテナに積まれたものがそのまま届く。これを開封し、在庫用にパレットの上に並べなおす作業が行う。40フィートの海上コンテナには、(荷の大きさによるが)数百~千個程度のケースが積まれており、その荷降ろしには、二人掛りで2時間ほど掛かる。パレットはフォークリフトで倉庫内に収納される。一日に届く海上コンテナは、10~20本くらいであった。朝二人組みを作り、ペアで丸々一日かけて4,5本のコンテナをさばく。また、国内の工場からの入荷や、店舗間移動のため荷物はトラックで届くが、その荷降ろしも行う。
  • ② ピースピッキング:工具や衣服などの細かい商品は、一アイテム単位で店舗ごと出荷する。そのための、在庫棚から指示通りの商品を探し、折りたたみ式コンテナ(オリコン)に詰める作業は「ピースピッキング」と呼ばれる。ここは唯一、女性の派遣社員とパート社員が働いている部署である。スポット派遣が指示書通りに詰めたオリコンを、パート社員が検品しラベルを貼ったものを出荷用ラインに流していく。
  • ③ パレットからベルトへの投入:荷物はベルトコンベアで自動仕分けされ、各行き先ごとのトラックの前まで運ばれる。しかし、パレット上の荷物をベルトに載せる作業はすべて人の手で行われる。この作業を手動で行うことには、個数確認と、荷物の破損チェックの意味合いがあると思われる。
  • ④ 「不定形ライン」におけるベルトからのピッキング:大きな箱などは、自動仕分けにかけることができないので、「不定形ライン」と呼んでいるベルトに流して、人の手で仕分けする。空港のバゲッジクレームのように、ベルトの前で何人かが待ち構えており、自分の担当の店舗の商品が来たら荷物を拾っていく。
  • ⑤ 出荷用トラックへの積み込み:仕分けされた荷物を、最終的に各店舗ごとのトラックへ積み込む作業。この積み込みが完了するまでは、その日の仕事は終わらない。

これらの作業は、基本的には「箱を持ち上げる→振り向く→箱を下ろす」という極度に単純なものである。作業が頭を使わなくても出来るように合理化されているため、その日初めてこの物流倉庫に来たスポット社員でもすぐに即戦力として働くことができる。

 

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図2:物流センター内の作業内容(本レポート筆者の体験をもとに作成)

また、一日中同じ持ち場に着くので、3時間に一回の休憩の他は同じ作業を8時間~12時間繰り返すのみである。また機械の配置等が合理化されているので、作業中に周りの人とコミュニケーションをとる必要も少ない。中には声を掛け合って冗談を言いながら作業をしている人もいるが、望まなければまったく人と口をきかなくても済む。就業時間は
8時間ということになっているが、出荷が終わるまでは残業することが暗黙の了解になっており、通常は10時間、長いときには12時間以上に及ぶ。ベルトコンベヤの騒音の中で、ひたすら機械的に身体を動かしていれると日が暮れていき、それでも疲れ切った身体を惰性に任せて動かし続ける。そのような職場だった。

なお給与は時給900円であった(F人材派遣会社の場合)ので、実働で10時間働いた場合、超過手当てを含めても一日の稼ぎは一万円に満たない。

4. 登録型派遣労働と物流業

ここでは登録型派遣の制度と、その物流倉庫業への導入の経緯について見ていきたい。

4.1 登録型派遣

人材派遣業は、図3のように要約される。まず、「派遣先」(物流業者など)と「派遣元」(人材派遣会社)との間に労働者派遣契約が結ばれ、それに応じて「派遣労働者」が派遣先へと供給される。派遣労働者は派遣先と「指揮命令関係」に置かれるが、あくまでも雇用関係は派遣元とだけ結ばれる。人材派遣事業は、このように労働者の雇用と使用を分離した労働需給調整の仕組みであると言える。

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図3:派遣に関わる3者の関係 (『よくわかる人材派遣業界』を参考に作成』)

日本での人材派遣事業は、1986年の労働者派遣法の制定によって始まった。当初は16業務にだけ派遣を許可するポジティブリスト方式が取られ派遣期間は9ヶ月とされた。

1999年には、派遣が可能な業務を挙げた「ポジティブリスト制」から禁止業務のみを示した「ネガティブリスト制」へと改正された。さらに2004年の改正では、①港湾②建設③警備④医療業務を禁止としているものの、製造業の解禁し、派遣期限を撤廃ないしは3年に延長した。このように法改正によって段々と派遣期限が延長されてきたことの背景には、派遣先で常用雇用者を派遣社員で代替する流れが進んだことがある。派遣先にとって派遣労働者を使う最大のメリットは、雇用責任を負わずにすむことである。景気の良し悪しに応じて流動的に労働力を確保できることから、人材派遣事業は急速に成長した。

労働者派遣法では、一般労働者派遣と特殊労働者派遣の2種類が定められている。一般派遣労働では、不特定多数の人が人材派遣会社に登録し、仕事先が決まってから雇用契約が交わされる形態をとる。このシステムでは労働者が不利になりやすいので、派遣事業者に対して許可を与える「許可制」が取られている。その中でも主流となっているのは、「必要なときに必要な人数を」供給する「スタッフ登録型派遣」である。一方の特定労働者派遣は「常用型」とも呼ばれ、労働者と派遣元が常に雇用関係にある形態の派遣事業である。こちらは特に許可の必要は無く、「登録制」が取られている。物流倉庫での軽作業は「許可制」中の登録型派遣に該当する。

2009年厚生労働省発表資料によると、2008年度の派遣労働者数は399万人に上り、その内の281万人が登録型であった。

4.2 物流倉庫業の労働

ここでは、国土交通省が2009年に作成した『物流施設における労働力調査』をもとに、物流倉庫の労働の特徴について見ていきたい。まず図5は全産業と小売・卸業の労働力の過不足状況を示している(縦軸は「労働力不足割合(%)」から「労働力過剰割合(%)」を引いたポイント)。全体の傾向として、全産業、小売・卸売業ともに2008年から2009年にかけては労働力不足が解消している様子がわかる。報告書は、これを「2008年後半から始まった世界同時不況の影響で、派遣切りに代表される大規模なリストラが進んだ結果、全産業で不足超過から一気に過剰超過に転じた」と分析している。

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図4:労働力の過不足状況(国土交通省2009年『物流施設における労働力調査』より)

しかし、小売・卸業に注目すると、依然として臨時・派遣社員とパートタイム社員は不足していることがわかる。小売・卸業では、この不況のなかでもなお非正規社員が不足していると感じているのである。このことから、物流倉庫業を含んだ小売・卸売業が非正規社員に依存した業界だということがわかる。

 

表2:給与・労働時間(2001~2007年の調査による。出所:同上)

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次に、労働時間と給与の、倉庫業と産業平均の比較を表2に示す。倉庫業の給与は産業平均に比べて10%ほど低く、また労働時間はわずかに長いことが分かる。しかし、これはパートタイム社員なども含んだ平均だということを考慮しなければならない。倉庫業務の性質上、3~4時間のシフトでのパート社員も多いことを考えると、フルタイムで働く社員にはかなりの長時間労働が強いられていると考えられる。

物流業は労働力集約型産業であり、労務管理の効率化が常に課題とされてきた。90年代には、従業員のパート化が進んだ。1999年の記事(『1999/11流通設計』)によれば、業界大手のヤマト運輸は従業員に占める臨時社員の割合を、99年度までの三年間で、2倍の40%にまで高めている。その中、1999年に労働者派遣法が改正され、港湾・警備・建設・物の製造など一部を除いたほとんどの業務で派遣事業が解禁されると、人材派遣企業による物流事業への参入が始まった。当時のグッドウィル・グループ川上真一郎社長は「労働力をジャスト・イン・タイムで供給する。それが当社の事業だ」と述べている(『流通設計』1999年11月号)。また、同じく軽作業への人材派遣大手のフルキャストに関して、2003年の日経新聞の記事では、

2003年にフルキャストは三カ月―半年を超す長期の請負契約を取り付ける事業に乗り出し、全国に8箇所の専用拠点を設けた。フルキャストの二〇〇三年九月期の連結経常利益は、前の期比八二%増の二十七億円弱となったようだ。従来予想を一億五千万円ほど上回る。大型受注が増え、物流倉庫向けなどの請負作業の採算が高まった。(2003/10/3日経新聞朝刊)

と伝えられている。このように、2000年代の前半には、物流業への派遣スタッフの導入が広がっていった。

5. 考察:コスト転嫁の構造の中での派遣労働

失われた10年と日本の流通』第3章「バブル経済崩壊後の小売業界における変化と特徴」では、2節で見たような日本における流通の変化を「高コスト商品流通の外部転嫁による小売企業の生き残り」という枠組みでとらえている。

著者はまず、バブル崩壊後の日本を「売れない時代」にあるとし、そのような時代の中で、小売業の生き残りのためには、高コスト商品流通に手を出すこと、しかしそれを外部へ転嫁することの2つが必要条件であると言う。

現代の消費者の嗜好に合わせて多様な商品を取りそろえ、魅力的な店舗を維持することには、高いコストがかかる(前で触れたアマゾンジャパンの書籍の無料即日配送なども、高コスト物流の例であると言える)。そこで大手の小売業者は、このようなコストを自分で負うのではなく、流通チャネルの中で小売業だけが持っている情報格差を背景に、メーカー・中間業者・他の小売業者へ商品流通コストの外部転嫁を行ってきた。まずメーカーへは、NB商品の値引きやPB商品開発の要求を行い、仕入れコストを削減した。また卸売業などの中間業者へは多頻度小口配送などコストの高くつく物流サービスを要求した。そのことによって小売業者は物流のコストを負わずに済むほか、在庫保持のコストを負わずに済むようになる。さらに同業の小売業者に対しても、自らはショッピングセンター(SC)を経営し、テナントを募集することで店舗維持コストを回避し、あるいはセブンイレブンのようにフランチャイズ・チェーン(FC)の形態をとることによって、店舗を持つコストを外部転嫁してきた。このように、高コスト商品流通のコストの「丸投げ」に成功した小売業者が「売れない時代」を生き残った。そのような小売業者の代表がイオンとセブン&アイの二強である(『失われた10年と日本の流通』第3章「バブル経済崩壊後の小売業界における変化と特徴」)。

小売業が優位に立つ時代では、このように、卸・物流業者は高コストの物流業務を低マージンで引き受けざるを得ない。そのため、今度は物流業者が自身の事業の内部でコストを削減する必要があるが、そのもっとも大きな割合を占めるのが人件費である。そこで4節で見たように、卸・物流業者は必要に応じて働き手を募集したり解雇したりするのに掛かる費用を、人材派遣会社を使うことによって外部化している。ここでは、再び「コストの外部転嫁」の構図が現れ、次のような業種間のコスト転嫁の図式が浮かび上がってくる:

    小売業者 →卸・物流業者 →人材派遣会社 → 派遣労働者

つまり、『失われた10年と日本の流通』第3章の論旨をもう少し押し進めれば、「売れない時代」のコストを最終的に負っているのは、派遣労働者であると言えないだろうか。

6. 物流倉庫業日雇い派遣の今後

登録型派遣の是非を巡る議論、政策

4節で見たように、人材派遣事業は2000年代に急速な広がりを見せた。しかし、最近では不安定就労などの問題点が指摘されるようになり、その是非が問われ始めている。2010年1月現在、今国会中に労働者派遣法の改正案が出される見通しとなっている(日経新聞10/01/18)。労働政策審議会の職業安定分科会では2009年末の数回にわたる議論を行い、審議内容を取りまとめた。その中では、まず労働者派遣の現状を次のようにまとめている:

昨年来、我が国の雇用情勢が急激に悪化して、いわゆる「派遣切り」が多く発生しており、その中で、登録型派遣については、派遣元における雇用が不安定であり問題であるという指摘があったところである。また、特に製造業務派遣については、製造業が我が国の基幹産業であり、技能を継承していくためにも労働者が安定的に雇用されることが重要であると考えられるところ、昨年来のいわゆる「派遣切り」の場面においては派遣労働者の雇用の安定が図られず、製造業の技能の継承の観点からも問題であるとの指摘があったところである。(厚生労働省発表2009年12月28日「「今後の労働者派遣制度の在り方について」の答申について」 別紙)

つまり、雇用が不安定であることや技能継承が難しいことを、登録型および製造業派遣の問題点として挙げている。また、規制強化に反対の立場には次のように言及している:

一方で、労働者派遣で働きたいという労働者のニーズが存在し、企業においても、グローバル競争が激化する中で、労働者派遣は必要不可欠な制度となっており、特に中小企業において労働者派遣による人材確保が一定の役割を果たしているという指摘があったところである。(同上)

報告書では両者の立場を踏まえた上での結論として、1)登録型派遣の原則禁止*1、2)製造業務派遣の原則禁止*2、3)日雇い派遣の禁止*3、を打ち出している。なおこの改正の施行は、改正法の公布の日から3年以内の政令で定める日とするのが適当とされている。

社会的には、2008年度末の製造業での派遣切りが大きく取り上げられ、製造派遣の禁止の機運が高まった。しかし物流倉庫では製造業以上に、派遣労働とくに日雇派遣労働に依存している面がある。というのも、物流倉庫では一日に取り扱う荷物の量に大きなばらつきが出るため、それに合わせた労働力を一日単位で派遣業者に発注しているからである。製造業においては、景気が悪くなったときに解雇される派遣労働者や他の非正規労働者が「景気の調整弁」として使われていると言われるが(東京新聞2008/12/2社説など)、物流倉庫では、雇用の段階ですでに日々調整が行われている。そのため、今後、日雇派遣(2ヶ月以内の派遣)が禁止されると、ほかの産業に比べて物流倉庫業において影響が大きいと思われる。2009年には、製造業派遣は前年に比べて約半分に減ったが、軽作業の派遣はむしろ増えていると言う。物流倉庫などの軽作業への派遣労働者数は2009年の9月までの月平均が8,711人だった(日本人材派遣協会発表)。

規制強化の流れの中で、物流業者は対応を迫られている。業界紙(Logi-biz)の2009年12月号では、「新しい物流労務管理-派遣禁止・最低時給1000円時代の現場経営」と題して特集記事が組まれている。その中では、日雇派遣労働者を代替する手段として、物流業務をアウトソースする「業務請負」と全労働者を自分で雇用する「直接雇用」の2つがあると言う。請負化は、自分は労務管理から完全に免れる半面、簡単にコストが削減できなくなるデメリットがある。一方の直接雇用は、これまで人材派遣企業に頼ってきた労務管理を一から自社で作り上げなければならず、大きな負担が強いられる。記事の中では、物流センター内の派遣スタッフを全て自社雇用に切り替える試みを行った例を取り上げているが、物量の変動にまだ対応しきれず繁忙期は派遣に頼る可能性もあると言う。しかし、この特集記事は「いずれにしても、派遣に依存した現場運営には未来がない」という言葉で締めくくられている。困難はあっても、日雇の派遣スタッフに頼れなくなる以上、物流倉庫の労務管理は変わっていかざるを得ない。

7. 終わりに

「ものを運ぶということは人間生活の悲しい宿命である」 ~映画『荷役近代化への道』~

1966年の映画『荷役近代化への道』を観ると、どの時代であっても、物流の仕事が存在したことが分かる。人間が生活する上では、食べ物やその他の商品を生産地から消費地へ運ばなければならない。映画の中では、駅で60キログラムの米俵の荷降ろしを行う男たちや、頭上に100kgの材木を載せて運ぶ女性たちの姿が映し出されている。その当時からすれば、今日の物流は高度に合理化・機械化され、人体への負担は格段に小さくなった。しかし、現在でも物流のために汗をかく多くの人々がいる。

本稿では、物流倉庫で派遣労働者が働いている現実と、社会の変化の関係について考えてきた。不況下での消費者の嗜好の変化とグローバル化の圧力を背景とした流通規制緩和政策によって、大規模チェーン小売業が覇権を握る時代になった(2節)。企業の生き残りをかけて、小売業社はますます高コストの流通を中間流通業者に迫り、流通業者は流通革新によってその要求に対応してきた。その中で、物流に掛かる変動的な労働力はさらに外部化される必要があったが、同じ規制緩和の流れで登場した人材派遣会社がそれを担うようになった(4節)。その結果、今日の物流倉庫での多くの派遣労働者による低賃金での長時間労働という現実が存在している(3、4節)。ところが、登録型派遣の禁止などによって、そのような就労形態が許されなくなるため、物流業各社は対策を模索している(6節)。

ファスト風土化する日本』(三浦展,2003年)では、地方の地域社会の崩壊と犯罪率の増加の問題を小売業の変化と結び付けて告発している。高度経済成長で進んだ全国の道路整備と、90年代における小売業の規制緩和によって、地方に巨大な郊外型ショッピングセンターが登場した。それが地域社会の都市化を進め、地方の人々の心を崩壊させてしまったと言う。日本の地方では、どこを見ても同じ風景になってしまった。そうした均質化の立役者であるのがチェーンストアであり、そのチェーンストアの営業を支えているのが、まさに本レポートで見てきたような物流センターである。『ファスト風土化する日本』では、現代の消費文化が消費者側の心や生活習慣に与える負の影響に注目しているが、本稿で見てきたのはそれを維持運営していく流通システム側の問題点だったと言える。

物を届ける側にも、届けてもらう側にも歪みをもたらしている現在の流通のあり方は持続可能とは言えず、今後は変わっていかざるを得ないだろう。今回の登録型派遣禁止も、変化の一つのきっかけになると思われる。

最後になりましたが、社会の問題に目を向ける機会を与えて下さった田中洋子先生、ならびに田中ゼミの仲間たちに心から感謝申し上げます。

参考文献

*1:専門26業務や予定紹介派遣など「雇用の安定等の観点から問題が少ないもの」については、禁止の例外となることが適当、とされている。

*2:雇用の安定性が比較的高い常用雇用の労働者派遣については、禁止の例外とすることが適当である、とされている。

*3:日々又は2か月以内の期間を定めて雇用する労働を「日雇」としている。