年度の変わり目。皆様変化の季節を迎えていることと思いますが、私(丸山)も一区切りのタイミングとなりました。今月末をもって、現職の科学技術振興機構(JST)を退職し、4月からは個人事業主となります。すでに口頭で説明済みの方も多くいらっしゃいますが、簡単にこれまでの活動と、今後の活動の予定について書きたいと思います。
※本記事は、主に丸山と親交いただいている方に向けた報告用です。
現職(JST-CRDS)でやったこと
まず、現職について改めて触れておくと、過去3年と少しの間、科学技術振興機構(JST)の研究開発戦略センター(CRDS)で働きました。JSTは文科省系の資金配分機関(funding agency)の一つであり、CRDSはそのなかの「シンクタンク」の位置づけの部門です。科学技術政策(業界関係者の間では「科学技術・イノベーション政策」と称される)に関する調査を行い、JSTだけでなく、文部科学省や内閣府をはじめとする行政機関に情報提供や提言をしています。
CRDSでは様々な技術領域や政策アジェンダについて、70~80名のメンバーが「フェロー」という職制で調査活動に当たっています。私が所属したのは遊軍的な扱いの部隊で、特定の技術領域や政策を横断しながらテーマ探索を行うチームでした。
「重要なテーマを見つけよ」と言われても、科学技術政策の何たるかはおろか、JSTがなんの組織すらまともに知らずに着任した自分には当然難しい話。ゼロから勉強しながら、毎日「自分に何ができるのか?」と頭を悩ませる日々でした*1。
前々職の出版社をやめたときには、書籍編集という仕事についての自分なりの言葉が溢れてきたのですが、今回は現職であるSTI政策の調査・提言活動の何たるかを言語化できるに至りません。この仕事のスコープに入ってくるステークホルダーの多様さ、その利害や意思決定プロセスの複雑さが、自分にはまだまだ手に負える状態にないと感じます*2。
そんな中ではありますが、いくつかのテーマの調査を構想・主導させてもらい、どうにかこうにか報告書として形にすることができました。以下、在職中に手掛けた主な仕事を並べてみます。
主担当として企画・執筆した報告書
- 「イノベーションエコシステム形成に向けた産学橋渡しの現状と課題」(2022年3月)… 産学連携をイノベーションエコシステム論の中に位置づけ、とくに特許を介した技術移転、アカデミア発スタートアップ、共同研究の3種のルートにおける産学連携に関する現状と課題を、定量調査と有識者インタビューをもとに整理しました。
- 「ニューロテクノロジーの健全な社会実装に向けたELSI/RRI実践」(2022年10月)… 新興技術に関する国際ルール形成が進む象徴的な技術領域としてニューロテクノロジーを取り上げ、国内のキーパーソンを招いたワークショップを実施しつつ、国内外動向をまとめました。
- 「拡張する研究開発エコシステム:研究資金・人材・インフラ・情報循環の変革に乗り出すアントレプレナーたち」 (2023年3月)… 近年、研究のエコシステムを新しい創意工夫で「拡張」しているような企業が多く出てきている状況に着目し、海外の「メタサイエンス」の動向などと結びつけながら報告しました。
- 「Beyond Disciplines ~CRDSが注目する研究開発の潮流2024~」(2024年3月)… CRDSが近年発行した数十冊・計数千ページの報告書をコンパクトな冊子にまとめる試み。30名ほどのフェローと議論しながらとりまとめました。
メンバーとして制作に関わった報告書
- 「SDGs達成に向けた科学技術イノベーションの実践」(2021年3月)
- "Mobilizing Science, Technology and Innovation for SDGs: Japanese Actions in STI for SDGs"(2021年4月)
- "Transforming Science, Technology, and Innovation (STI) for a Sustainable and Resilient Society," Science and Diplomacy(2021年11月)
- 「科学技術・イノベーションの土壌づくりとしてのELSI/RRI」(2023年5月)
- 「人工知能研究の新潮流2」(2023年7月)
- 「次世代AIモデルの研究開発」(2024年3月)
報告書以外の発表
- 「フィランソロピーによる科学助成の新潮流」(研究・イノベーション学会年次学術大会講演要旨集 37 255-259 2022年10月)
「研究データ共有(オープンデータ)の動向」(2023年2月)
- ポスター発表 "Emerging entrepreneurial activities in the Japanese research ecosystem" (Metascience 2023 Conference、 2023年5月)
- ポスター発表「AI × Metascience予備的サーベイ」(AIロボット駆動科学シンポジウム、2023年7月)
- コラム「メタサイエンスとは何か ~「営みとしての科学」を理解し、よりよく変えていく研究・実践の胎動~」(2023年6月)
(おまけ)副業として行ったもの
- 「脳とAI 溶ける境界 大規模言語モデルが開く脳の理解」(『日経サイエンス』2023年10月号、平理一郎さんとの共著記事)
- 「脳は内から世界をつくる」(翻訳・解説担当、『日経サイエンス』2023年10月号)
- 「科学をメタに捉える」(『日経サイエンス』2023年12月号Book Review欄)
それぞれについて言いたいこと、積み残した問題意識などは山ほどあるのですが、ここではリストだけ。この業務の特性として、考えたことがおおむね公開文章として残せているのは嬉しいことだなと思います。
これらの報告書を書く途上では、「こんな素人の俄か勉強が役に立つのか?」という思うことも多々ありました。しかし次第にわかったのは、CRDSの発行物の主たる想定読者である各省庁の行政官の方々は、二年ごとに部署を変わる都合上、私のようなものが勉強して取りまとめた資料でも重宝されるということでした*3。また行政以外の方々からも「役に立った」といってくださることもあり、嬉しく思いました。
ちなみに、CRDSは職場して非常に恵まれたものでした。幅広い各分野の専門知を備えた同僚とオフィスで机を並べ、議論ができるというのはおそらく他にはない環境だと思いますし、テーマ設定からかなりの裁量とともに働かせていただけたのは、私の実力・経歴からしたら望むべくもない機会だったと思います。在職中に自分に投じていただいたリソース(税金!)の分の働きができた気はしないので、これからもできる形で何らかの還元ができればと考えています。
これからのこと
CRDS着任とともに科学技術政策の世界に足を踏み入れた私ですが、以下のような観点から、そろそろ外に出てみようと考えました。
- 経験豊富な同僚のフェローたちと働くなかで、これからもこの世界でやっていくには調査だけではなく、実地の経験を積む必要があると思ったこと。
- 自分の一連の調査・検討から、科学技術研究の「エコシステム」を発展させていく一つの鍵が「政策主導ではない分散的な取り組み」にあることが見えてきたこと。
- 自分のキャリアの発展性にとって、調査以外の仕事、とくに事業をつくる経験がプラスになると考えたこと。
4月からは個人事業主になることにしました。独立したいとか、独立できると思ったわけでもなく、過渡的なステータスとしてそうした選択となりました。
当座の活動のメインは「一般社団法人AIアライメントネットワーク」という、できたばかりの団体の事務局業務です。ここ数か月、有給期間中にボランティアで関わり始めているのですが、総務・経理・法務・企画・広報、あらゆる仕事を勉強しながら始めています。毎日新しいハードルに突き当り、非常にフラストレーティング…かつ刺激的です。ちなみに本法人でフルタイムに近い形で関わっているのは現状私のみで、やりたいことに対して手がまったく足りていないので、組織運営に関してアドバイスをいただける方、手を貸してくれる方、大募集中です!!(興味のある方は個人メール宛てにご連絡ください!)
その他、自分の経験が生かせそう・スキルが伸ばせそう・生計に寄与しそうな仕事があれば受託していきたいと思っています。
まずはそうした生活を1年くらいを期限としてやってみて、「何を経験できたのか」「何をできると思えるようになったのか」「どうしてもできなかったのは何か」「どれくらい稼げたのか」を振り返りつつ、次のステップを決める腹積もりです。今流行りの用語で言えば「リスキリング」の期間に当たるのかもしれません。1年後、何を考えてどのような道を選ぶのか、現時点ではまったく分かりません。
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以上、一身上の報告に目を通してくださりありがとうございました。
JST-CRDS在職中に様々な形でお世話になった皆様に深く御礼を申し上げます。今後ともご指導・アドバイス・懇談・雑談などしていただけるとありがたいです。何卒よろしくお願いいたします。
CRDS在籍中に参加したMetascience Conference(@National Academy of Sciences, Washington D.C.)での写真。