Humans Need Not Apply: A Guide to Wealth and Work in the Age of Artificial Intelligence
- 作者: Jerry Kaplan
- 出版社/メーカー: Yale University Press
- 発売日: 2015/08/04
- メディア: Kindle版
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人工知能の危険性を指摘する本は、最近本当に多く出ている。本書もその一冊である。著者のKaplan氏は、シリコンバレーでいくつものベンチャーを立ち上げている起業家だそうだ。つまり自ら「技術で世界を変える」側の人間なわけで、そうした、ある意味で当事者の立場から、人工知能がもたらす未来の何に心配すべきかについて書いた本となっている。
人工知能の危険については、色んな人が色んなことを言っている。本書が重要視するのは、人工知能に法的な人格を与えるべきかという法的な問題、そして人工知能が人間のスキルを無価値化してしまうことによる雇用の問題、そして人工知能をコントロールする一部の富豪とそれ以外の人々の間に広がる格差の問題である。
なぜこうした問題が生じるのかを、著者はすでに起りつつある変化ーー株式取引の自動化、自動運転車、台頭するアマゾンなどーーを参照しながら描いていく。類書に見られるような経済学などの学問的考察はなく、根拠としては“著者の実感”を超えるものはなさそうだ。ただIT企業の実務に深く携わってきたからこその説得力が感じられ、おおむね「なるほど、そうなるかもな」と思された。
「教育のやり方を変えていくべき」という主張には頷けた。これから様々な職業が人工知能/ロボットでとって替わられるようになる。すると、一度身につけたスキルで一生働いて稼ぐということが現実的でなくなり、「学校で勉強する→社会でそのスキルを生かす」という従来のモデルでは対応できなくなる。そこで、社会に出てすでに働いている人が、別のスキルを身につけるために「学び直す」ということが必要になるだろう。そのように著者は言い、それを可能にするための制度を提案したりもしている。最近、仕事柄「大学の教育で何を教えるべきか」について考えたり議論を追っかけたりすることも多いのだけど、「人工知能による労働市場の激変」という観点も見落としてはいけないだろうなと、本書を読んで思った。