重ね描き日記(rmaruy_blogあらため)

読書メモ、探究メモなど。

読後感メモ:『惑う星』(リチャード・パワーズ 著)

 

Twitterに書く程度の感想になるが、ネタバレを含むかもしれないのでここに置いておく。

Richard Powersの『惑う星』、倫理的障壁のようなものを感じて躊躇していたが、予想より自分にとってrelatableな内容で、かつ公私ともに関心の強いテーマを扱っており、今読んでよかった。

人新世に壊れる心をニューロテクノロジーで癒やすというモチーフは極めて現代的で、実際にそういうことが起こっていくのだろうと思う。(ちなみに、川人先生らのDecNefが名指しで使われていて印象的。)

宇宙生物学者の主人公は、遠い惑星の生命についての基礎研究を続けることの意義を政治家などに伝えることに苦慮するが、地球上の生命をcareする妻や息子にはその意義が自然に共有されているのは興味深い。

本書と、年末に読んだ下西風澄『生成と消滅の精神史』との強い呼応を感じた。理性や共感力を働かせるために情動を乱されていく主人公の家族は、下西著が「気が狂いそうだった」と表現するブレーズ・パスカル夏目漱石の姿によく重なった。

本書に出てくる10歳の少年は、宇宙全体とその未来に心を拡張することでその重荷に耐えられなくなっていく。個人的には、10代以下の人たちには、未来を引き受けないで生きてほしいと思う。(だとすると、20~40代くらいの大人たちは、矛盾や無力感への耐性を獲得しながら未来を背負いつつ、その重荷を子どもたちには伝播させない心のしなやかさが必要となる。まず無理だが、そういう時代に生きているのだということを本作はまっすぐ教えてくれる。)