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読書メモなど

読書メモ:地球にちりばめられて(多和田葉子)

 

地球にちりばめられて

地球にちりばめられて

 

面白かった。

以下は、印象をとどめておくためのメモ。

舞台はヨーロッパ。多国籍の若者たちが出会い、意図せず道連れとなる。「日本」という言葉は出てこないが、中心人物の一人は日本人と思しき女性。しかし、彼女の母国はどういうわけか消滅したらしい。永遠の「移民」となってしまった彼女は、彼女の母語(日本語)をもう一度使うことを夢見て、同邦人を探す旅に出る。

海外を旅行したり、海外の人と話をしたりすると、何とも言えない解放感を味わうことがある。それは、日本で、日本人の社会の中に生きることの、普段は意識されない「息苦しさ」の裏返しだ。言葉にしなくても共有していることを期待されている「常識」、日本人であるからには当然察しなければいけない「空気」、そういったものに支配されている。海外の人と不自由な言葉だけを通して分かり合えたとき、そのことを強く感じたりする。

登場人物たちは、彼らの出自や出身国について回るもの(ステレオタイプなど)を認識しつつも、自らはそれを乗り越えた「地球人」として振る舞う。と同時に——主に「言語」を通じて——お互いの違いも意識する。隣にいる友人が、いつも自分と話しているのと違う言語を話し始めたときの発音、言葉づかい、そうしたものに鋭い関心を寄せ、そこから立ち上がるものを味わおうとする。

日本が消えてなくなっている。そんなSF的設定から追体験できるのは、糸の切れた凧のように、「日本という空気」に縛られずに歩ける解放感。もう一つは、何気なく使っている日本語や、自分をとりまく衣食住の文化のかけがえのなさ。

本を閉じれば、日本はあるし、自分はそこに生きている。でも、少しだけ、自由な気持ちになっている。