
ライプニッツの情報物理学 - 実体と現象をコードでつなぐ (中公叢書)
- 作者: 内井惣七
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2016/02/09
- メディア: 単行本
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物理学で一番の謎はなにか? そう聞かれたら、僕なら「ダークエネルギーの正体」でも「宇宙の始まり」でも「物質の最小構成単位」ではなく、「時間と空間の実体」と答える。空間とはいったい何なのか。時間とは。
何が不思議なのかって?
たとえば、いま、目とPC(スマホ)のスクリーンとの間には空間がある。その空間の一点(どこでもいい)を10秒間見つめてみる。その点はずっとそこにあるように見える。しかし、地球が数百メートル毎秒で公転しているので、10秒後にははるか後ろ(どっちだ?)に吹っ飛んでいるとも言える。これだけでもう、空間とはなにか分からなくなる。(時間についても同様。たとえば、地球の裏側にいる人々と自分が、「同じ時間」を生きているのはどういうことなのか、とか。)
多くの人がもつ時間・空間観は、物理学で長く不動の座を占めてきたニュートン力学のものだろう。ニュートン力学では、一様に流れる時間と、3次元のユークリッド空間が用意されている。その中で、力学法則に従って物質が離合集散する。
目には見えないx、y、z軸とt軸。
世界に張り巡らされた直行座標系。
もちろん、ニュートン力学は相対性理論や量子論に乗り越えられて、時間・空間観も塗り替えられるわけだけど、認識が切り替わったとしても思うにそれは「頭」だけでのことであって、多くの人の「身体感覚」は未だにニュートン式の時空観にとどまっているのでないだろうか。
でも、本当にニュートンの時空で考えるしかないのだろうか。オルタナティブはないのか?
強力な代替案を提示した人物が、ゴットフリート・ライプニッツだ。
まさにニュートンと同じ時代を生き、しかもニュートンと数学や物理でしのぎを削ったライプニッツは、時空についてまったく違う世界観を打ち出していた。
どんな世界観か。
ライプニッツは時空を与えられたものとはみなさず、その背後にある別の世界から生み出されるものだと考えた。その世界はモナド界と呼ばれ、そこには時間も空間もない。
ライプニッツ自身は、モナドの世界から時間や空間がどのように生み出され、その中で物体の振る舞いがどう説明されるかについては述べなかった。そこで、本書『ライプニッツの情報物理学』は、ライプニッツの視点に立って、モナド論から物理学を再構成するという思考実験を試みる。
ライプニッツの哲学は、当時の物理学の基礎となりうるだけでなく、現代から見ると驚くべき先見性があると著者は言う。たとえば、帯に次のようにある。
「おとぎ話」と評されることもあるライプニッツの形而上学(モナドロジー)は、20世紀に生まれた情報理論を先取りしたものだと解釈できる。
なんともわくわくする話だ!
***
と思って、読んでみた。
が、全然分からなかった。
いわく、モナドの一つ一つは「オートマトン」なのだという。そのオートマトンが、現実世界へ翻訳されることで、物理現象として現れるのだという。まずは単純な「弾性衝突」からはじめ、空間や時間が生まれるメカニズム、果ては相対論や重力理論まで説明して見せるという。著者は自信満々で「これでお分かりかと思う」「すでに明らかになったように」といいながら論を進めるのだけど、笑ってしまうくらい全然分からない。
どこかでなんらかの光明が見えるのを期待しているうち、本が終わってしまった。著者はライプニッツワールドに入り込みすぎて、常人には理解できない境地に達しているのではないかとすら思えた。
***
時間や空間の本質について、ライプニッツや著者が持ちえた直観がありそうなのは分かる。しかし残念ながら、僕には読み解けなかった。
それでも、著者のやろうとしていることがおぼろげながらもわかったのは、2006年に出ている中公新書の『空間の謎・時間の謎』を読んでいたことが大きかったように思う。今から読む(挑む)方には、こちらもあわせて読まれることをおすすめします。

空間の謎・時間の謎―宇宙の始まりに迫る物理学と哲学 (中公新書)
- 作者: 内井惣七
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/01
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