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読書メモなど

読書メモ:鈴木さんにも分かるネットの未来

 

鈴木さんにも分かるネットの未来 (岩波新書)
 

 ドワンゴ創業者の川上量生氏の最新刊.タイトルがちょっと面白い.川上氏が出向(?)しているスタジオ・ジブリ鈴木敏夫プロデューサーから頼まれて書いたものらしい.とはいえ,本文中には鈴木氏は登場しないし,ドワンゴジブリという社名も出てこない.もっとオーソドックスに「ネットの未来」などでもよかったはずなのに敢えてこの書名.でも,「鈴木さんにも分かる~」は本書の雰囲気に絶妙にマッチしたタイトルだと感じた.と同時に,これで通じてしまうこと自体が著者の知名度を物語っていて,川上氏恐るべしだと思った.

内容は,インターネットにまつわる様々なことを素人向けに解説している.誰にでも関心のありそうなテーマが網羅されている.

  • コンテンツ産業はどうなるのか.そもそもコンテンツの値段はどうやって決まるのか.
  • ソーシャルメディアとはなにか.マスメディアに取って代わるのか.
  • ネット住民とはなにか.なぜ,ネットでは「炎上」のような独特な現象が起こるのか.
  • ネットの規制はどうなるのか.「インターネットに国境はない」というが本当にそうなのか.
  • 集合知」とは何か.それはネットが生み出す素晴らしいものなのか.
  • 電子書籍はどうなるのか.
  • ネットとテレビの関係はどうなるのか.
  • ビットコインとはなにか.

など,それぞれに対して現状の見立てと今後の見通しが書かれている.

ビットコインは成功しないだろうとか,ネットは多くの人の期待どおり民主主義的な場所にはならずに寡占的な状態に向かうだろうとか,「国境なきインターネット」は幻想であり今後は国により規制が掛けられるのは仕方のないことでもあるとか,どちらかというとネットへの過剰な期待や不安を諌める火消し的な説明が多いように感じた.ネットの話題になると「画期的!これですべてが変わる!」ということを言う人が多い理由についても分析していて,「そうだったのか」と思った.

個人的に一番気になったのは,やはり電子書籍の章だった.紙の本が電子書籍に取って代わられるのは避けられず,電子書籍の流通を担うプラットフォームもアマゾンやアップルの独占状態になるのも今のままでは不可避.その結果,電子を含む書籍の産業が全体として小さくなる可能性も高い.そうした悲観的な見通しを書いている一方で,こんなことも言っている.

ウェブとの親和性をどうやって高めていくか,それが今後の電子書籍の大きな課題であり,その結果如何で,電子書籍によって出版産業が縮小するのか,希望を維持できるのかが決まるでしょう.(p.227)

これはぼくの予想ですが,現在のウェブでの情報の爆発にともなう内容の低レベル化を考えると,無料ウェブ上で広がっているハイパーリンク網とは別に,有料の電子書籍間でのハイパーリンク網が,インターネットのあらたな知のネットワークを構築する可能性があるんじゃないかと期待しているのです.(同)

書籍は,質を担保された有料コンテンツとしてネットの中で生きていくという未来像.普段なんとなく思っていたことを言葉にしてくれている気がした.勇気づけられるとともに,今,ネットから切り離されたデバイス(=岩波新書!)で川上さんの言葉に触れていることがかけがえのないことに思えてきた(笑).

ネットが大好きな著者が,ネットがそれほど好きじゃない人に向けて,「無理して好きにならなくていいんですよ.でもこれでは気をつけてね」と言ってくれる本.ネットが嫌いな人におすすめしたい.

***

ぜんぜん関係ないけど,ドワンゴに入った研究室の同期のことを思い出した.彼は元気だろうか.