最近、企業経営に関する数冊の本を読んだ。
何冊も読むつもりはなかったのだが、一冊目が思いのほか面白く、芋づる式に買ってしまった。
今回分かったのが、経営の本というのは、いっかいの会社員が読んでも相当面白いということ。とくに、10年以上前のビジネス書で今も書店に残っているものというのは、それなりの理由があると思わされた。
備忘録として、簡単にメモしておく。
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「現場主義」「ワイガヤ」「モチベーション経営」など、「定石」「セオリー」と呼ばれるような経営方針が間違って使われるとどんなひどいことになるか、そして「定石の誤用」で苦境に立っている企業はどう対処すればよいかを、経験豊富な経営コンサルタントが事例を交えて解説した本。
「経営のキーワード」というものは、「帰納によって導かれたものか、演繹的に導かれたものか」、「分析のためのものか、経営方針のためのものか」の2軸で4種類に分けられるという説明には納得感があった。いわゆる「経営の定石」は「帰納による✖経営方針のためのキーワード」であって、上手くいくかどうかは状況に依存する。当たり前だけど、それはそうだ。
経営者向けの内容が多いが、一介の社員に向けた「現場の人へ」という項目も設けられている。著者が一社員に向けて繰り返し書いているのが、「一度は本当のことを言って怒られろ」ということ。上に何かを報告・提案するとき、最初は忖度せずに本当のことを言い、否定されたらその後に「魂を売れ」という。有益なアドバイスだ。
日本企業の問題点を指摘した組織論の名著として知られる本。社内の意思決定のプロセスや人事制度などの問題点を、「権力」という観点で分析する。もし、大企業などに勤めている人で「なんかうちの会社、ダメな気がするなあ」と思っている人がいたら、この本を膝を打ちながら読めるかもしれない。「だからどうしろ」という具体的なアドバイスはあまりないが、閉塞感の正体を知ることで、少し立ち回りやすくなるかも。
産業再生機構などで様々な企業の再建に関わってきた著者が、あえて博士課程に入学し、学術研究として「日本の企業が衰退するメカニズムは何か」をまとめた本。破綻した企業の社員・元社員・社外スタッフへのインタビューから、「衰退」の時期の企業の共通点、それが日本人の特性にどう関係しているか、そしてその特性を衰退に結び付けないためにどうすればよいかを考察している。以前『デスマーチはなぜなくならないのか』を読んだときにも思ったが、実務のなかで浮かんできた「疑問」なり「仮説」を、地道な学術的アプローチで解明しようという意欲はすごいし頭が下がる。
「衰退サイクル」 に入ってしまった企業の共通点とは、雑にまとめてしまうと、非オーナー系企業の場合は「社内調整にばかり労力が割かれるようになってしまうこと」、オーナー系企業の場合は「オーナーに意思決定力のすべてが集中していて、かつその決定が外部環境から逸れ始めること」。インタビュー調査や、その統計分析での裏付けは説得力があるように思えた。しいて言えば、研究の結果のなかに著者の最初の「仮説」をはみ出るサプライズ的要素がなかったのは、ちょっとだけ物足りなかった。
個人的に本書で一番インパクトがあったのは、多くのオーナー系企業では「オーナーの頭のなかだけでPDCAが回っている」という指摘だった。
ざっくり分かるファイナンス 経営センスを磨くための財務 (光文社新書)
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経営の本を読んでいるうちに、会計やファイナンスについて何も知らないことに気づいて読んでみた。「ざっくり分かる」とあるが、割と骨太な内容だと感じた(自分がまったく無知だったこともあると思うが)。損益だけを見ていてはダメ、キャッシュフローの視点が大事。資金調達が主に「銀行から」なのか「株主から」なのかによって、その企業の経営戦略も全く変わってくる。そうした基本的なことがいちいち勉強になる。
ロジカル・プレゼンテーション――自分の考えを効果的に伝える戦略コンサルタントの「提案の技術」
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ビジネスパーソンがいかに「提案」を作り上げるべきかを指南した本。現場の社員向けに書かれたものなので、5冊のなかで実用性は一番高かった。「提案を通す」ためには、まずは論理をしっかりと組み立てること。そのうえで相手に合わせて、プレゼンを設計すること。論理構築・プレゼン設計の両方について、かなりわかりやすく解説される。
提案を受けた人が懐疑的になる理由は、「本当にそうなの?」と「それだけなの?」という二つの疑問しかないという。そのためには、「縦の論理」(因果関係)と「横の論理」(重複・漏れのなさ)が担保されていなければならない。そういわれるととてもシンプルで、目からうろこだった。
ビジネスの提案だけでなく、ブログの構成を考えるときなど、どんな表現をする際にも役に立つ汎用的な本だと感じた。