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読書メモなど

読書メモ:学びとは何か(今井むつみ 著)

 

学びとは何か――〈探究人〉になるために (岩波新書)

学びとは何か――〈探究人〉になるために (岩波新書)

 

 

最近、「大人になっても学び続けることが大事だ」というようなことがよく言われているように思う。一つには「同じ会社で同じ仕事をしていれば安泰」とはいかなくなった雇用環境があるだろうし、自分の仕事がそのうち機械に代替されるのではという危機感がリアリティを増していることもあるのかもしれない。もちろん、そんな世知辛い理由だけではなくて、よりよく生きるための、芸術やスポーツなどの趣味における「学び」が注目されているようにも思う。

私も漠然と「学びたい」という気持ちが沸くことがある。じゃあ何をどうやって学ぶか。資格を取るとか大学院へ通ってみるとか、そういう発想になりがちなのだが、しかし試験勉強をしたり講義を受けたりして資格や学位をもらうことが、果たして「学ぶ」ということなのだろうか? 改めてよく考えてみると、そもそも「学ぶ」ということについて、自分があまりよく分かっていないことに気づく。

本書は、認知科学者である著者が、「学ぶとはいったいどういうことなのか」を、平易に解説した一冊だ。赤ちゃんが母語を覚えるプロセスにおける発達心理学的な知見や、将棋棋士など特定の分野に卓越した人の脳測定から得られた知見などを織り交ぜながら、「学びというプロセスをどう理解すれば良いのか」「良い学習者になるためにはどうすればよいのか」などへの、著者なりの答えが示される。

学ぶとは知識を得ることであるとして、では「知識」とは何か?と読者に投げかけるところから本書は始まる。たとえば「知識」と「記憶」はどう違うか。記憶にも知識にも色々な捉え方があり、この問いには答えがないのだという。一つの考え方として、ひたすら情報が頭の中に溜め込まれると捉える知識観(「ドネラケバブモデル」と名づている)がある。それに対し、より認知科学的な知見に即した知識観として、知識は一つのシステムをなしていると考える知識観がある。後者の見方は、新しい情報が入ってくると、既存の知識システムがそれに応じて組み変わっていくというダイナミックなものだ。どちらも知識観としては成立する。だが、ここが重要なことに、「どの知識観を持っているか」ということ自体が、その人がどれくらい良い学習者であるかを左右するのだと著者は指摘する。

「知識観」と並ぶキーワードとして本書で紹介されているのが、「スキーマ」という概念だ。これは、個々人があらかじめ持っている知識の枠組みのことで、新しい情報はスキーマを使って処理される。スキーマに沿った知識であれば効率的に学習できるが、それにマッチしなかったり矛盾するものだったりすると、むしろスキーマが学習の妨げになってしまう。読書の例で考えれば、普段自分の読みなれているジャンルの本をサクサク読めるのは、その分野独自の話法や前提知識についてのスキーマができているから、ということになるのだろう。

「良い学び」のための方法を知りたかった読者にとっては、本書で得られる教訓は目新しいものではないかもしれない。情報を単に記憶するだけでなくそれを「使える知識」にすることが重要だとか、一つの目的に向かう粘り強さが大事だとかいう教訓は、それ自体では認知科学に教えてもらわなくても明らかだ。ただ、この本の一番のメッセージは、「自分の学びのプロセスに自覚的になることが学びの成功自体にとって重要だ」ということにあると思う。いま自分はどんなスキーマをもって、どんな目的に向かって学習をしているのかを意識すること。また、そもそも自分はどんな「知識観」をもって学習に臨んでいるのかに自覚的になること。その重要性は、羽生善治氏による巻頭言からもよく分かる。羽生氏自身がまさに「自覚的な学習者」を体現していることが巻頭言から伝わってきて、説得力がある。