重ね描き日記(rmaruy_blogあらため)

読書メモ、探究メモなど。

思考整理メモ:フィリピン人技能実習生との思い出と、入管法改正案についての感想

ここ数週間、「入管法改正案」のニュースが多く耳に入ってくる。

外国人に対する在留資格を増やし、おもに介護・農業・建築・飲食業などの分野で外国人労働者を受け入れるための制度だという。

自民党や政府は、人手不足が深刻な産業界のニーズに応えるためにこれを推進しようとしているが、野党は拙速だとして反対している。多くの在留者に家族同伴を認めないなどの人道的な問題点、またすでに存在する「技能実習制度」などの事実上の労働者受け入れ政策の問題点が放置されている点などが指摘されている。政府はそうした問題点に目をつむって法律を作ってしまおうとしている。つい昨日のニュースでも、「失踪」した技能実習生への調査結果が(ミスだとは言うが、どう見ても恣意的に)誤って伝えられていたことが判明した。

今回に限らず、制度設計に穴があることが指摘され、その制度が必要な論拠もボロボロになりながらも、結局は押し通されることが続いている。そのつど、私は何となく「反対」の気持ちを持つものの、それを表立って人と話したり、まして意見を表明したりはしてこなかった。ただ、この話題についてだけは個人的に思うところがあり、明確に反対したい気持ちがある。本ブログの柄には合わない内容になってしまうが、ここに書いておこうと思う。

大学2年生の夏休みに、長野県の農家で一カ月間、住み込みのアルバイトをした。そのときに一緒に働いていたのが、フィリピン人の技能実習生だった。たったひと月のことだったが、「外国人労働者」という言葉を聞くとまっさきに彼らのことが思い浮かぶ。とくに最近は毎日のように思い出している。

私が働いたのは、ご夫婦と20代の息子さんで営んでいる高原野菜の農家だった。そこにフィリピン人実習生が2名、夏季の半年間だけ来ており、さらに7月の一カ月間だけ、私が加わった。(登山雑誌に出ていたアルバイト募集を見て応募した。最初の電話では「英語はできるか」と聞かれて謎に思ったのだが、行ってみると日本がほぼ話せないフィリピン人が二人いたので納得した。私は非力で農作業も一番下手だったが、「通訳」としては少し役に立ったかもしれない。)

午前中は全員で白菜やキャベツの収穫をする。その日の分が獲れたら、お父さん(=社長と呼んでいた)がトラックで農協にもっていく。午後は、それぞれ分かれて仕事をする。重機や薬品を扱うのは社長で、畑での種まきや雑草取りなどの手作業を、息子さんの指示のもと、フィリピン人2名+私で行っていた。

 

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フィリピン人の二人は、30台前半くらいの男性だった(マックスさんとトニーさん、写真)。陽気な方々で、畑でもよく冗談を言っていた。この地区一帯で農協がフィリピン人実習生を受け入れており、全部で20~30人くらいだろうか。各農家に2,3人ずつ割り振られていた。寝床や調理場は各農家が準備し、そこで自炊をして生活をしていた。仕事のあと、とある受け入れ先の農家に集まってみんなでコンビニで買ってきた酒を飲むというのが日課だった。私もときどき混ぜてもらい、タガログ語を教えてもらったりした。

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外国人労働者」と聞いて私が思い浮かべることができるのは、コンビニでレジをしてくれる留学生たちを除けば、11年前に出会ったフィリピン人たちのイメージしかない。彼らは来た方々は、概ね楽しそうで、「技能実習生」という表向きの立場も理解したうえで働いているようだった。半年間の労働を終えれば、彼らはフィリピンに帰り、(少ないながらも)家族にお金を渡せるし、家族と一緒に過ごすことができる。(ちなみに、この半年後に、私は長野で知り合った実習生の一人を訪ねて、フィリピンを訪ねた。そこではいろいろ衝撃的な体験をしたが、一言で言えば彼らは「とても貧しく、でも楽しそう」だった。)

受け入れ先の農家も、すくなくとも自分を雇っていただいたところは、彼らに親切にしていたように思う。労働時間も厳密に守られていて、たとえば早朝の時間外労働が発生する「レタスの朝どり」は家族とアルバイトの私だけで行っていた。

それでも、「技能実習制度」の問題点を感じずにはいられない瞬間もあった。

  • 彼らから「君の日給いくら?」と聞かれることがあった。7000円(しかも彼らと違って賄いつき)と答えると、自分らはその半分以下だという。自分たちは"trainee"だから、と半ば諦めたように言っていた。
  • 移動手段が制限されていた。彼らだけで電車や車に乗ることはできず、農家で借りた自転車で移動できる範囲で余暇を過ごしていた。TSUTAYAに行ってDVDを借りてくるのをとても楽しみにしていたが、その機会は、農作業が休みの日、雇い主が連れて行ってくれる日に限られていた。
  • 近隣のセブンイレブンから、「フィリピン人が溜まりすぎて困る」というクレームが入り、「勝手にコンビニにいくな」という指示が農家から来るという事象があった。このときは彼らは相当怒っており、一瞬険悪になった。(その後どう解決したかはわからない)

何か歯車が一つ狂えば、彼らが「失踪」してしまう状況に追い込まれたとしてもおかしくないと私には思える。

以上は、11年前の経験であって、技能実習生をとりまく環境は変わっていると思う。数も2,3倍に増えているようだ。給料など、改善した面もあるかもしれないが、「失踪者」が年間7000人を超えるというのだから、問題が多く残っているのは間違いない。

私は入管法改正案に反対だ。それは、この制度で日本にくる外国人が気の毒だからではなくて(それも少しはあるけれど)、日本にとってとてもよくないことに思えるからだ。

私が出会ったフィリピン人たちは、楽しそうだった。でもそれは「技能実習制度」が優れていたからではなく、たまたま、フィリピンの農村の若者たちのニーズにマッチしたからだと思う。 彼らには家族や友達がいて、ただお金がなくて、圧倒的な経済格差のある日本という国があった。この条件では、半年間日本で「技能実習生」として出稼ぎする選択は合理的だった。でも、そんな条件が成り立つことは稀だろう。彼だって、5年も10年も、家族と離れて働くという条件なら、決して日本を選ばなかったはずだ。

原案の改正案は、技能実習制度を温存し、さらに拡大するようなものだと理解している。これを通せば、あと数年だけ人材不足は凌げるかもしれない。でもそのあとはどうなるだろうか。外国人が来てくれなくなったら、残るのは誰もやりたがらないような劣悪な職場ではないだろうか。外国人の働かせ方は、普通に考えれば、そのうち「日本人の働き方」になるのではないだろうか。

外国人労働者の受け入れ自体には反対しない。個人的な実感はあまりないが、もはや外国人がいなければ「回らない」というのは本当なんだろう。だったら、もうちょっとちゃんと考えて、その場しのぎでない仕方で、移民政策を考えるべきだと思う。

たぶん、推進派の言い分としては、「そんな議論を始めてしまったら、一向に話が進まない。何でもいいからとにかく今すぐ来てもらう必要があるんだ」ということになると思う。それも事実なのかもしれない。でも、多少困る事態になったとしても(何社か会社がつぶれたとしても)、まともな外国人の受け入れ態勢をつくることを優先すべきだと思う。

私が働かせてもらったような農家のような受け入れ先だって、新しい制度に対応して「いかに外国人労働者を確保するか」に四苦八苦するよりも、本当は長期的な事業の継続性を考えたいのではないかと思う。違うだろうか。