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読書メモなど

新刊紹介メモ:数学はなぜ哲学の問題になるのか(イアン・ハッキング著)

 

数学はなぜ哲学の問題になるのか

数学はなぜ哲学の問題になるのか

 

仕事で関わった書籍です。

発売日に合わせ、ここでも紹介させてもらいます。

 

興味のある方は、まずは訳者の大西琢朗先生の解説をぜひご覧ください。

イアン・ハッキング『数学はなぜ哲学の哲学の問題になるのか』 - Takuro Onishi

 

以下、一読者としての、メモ程度の紹介です。

***

本書の原著が出たのが3年前。

ハッキング氏の本を読んだことはなかったのですが、そのころ「数学の哲学」に俄かに興味が湧いていたこともあり、読んでみました。

 

数学の哲学。

この分野になじみがなくても、「数学を哲学したい気分」になったことがある人は多いはずです。私もその一人でした。

 

理由の一つは、「なぜ数学は役立つのか?」問題。

これは、よく「理屈に合わない有効性」というフレーズでも表現されます。頭のなかだけで出来る数学が、どうして実世界を相手にする「科学」や「工学」に使えるのかという不思議です。

 

もう一つは、「数学が分かるってどういうこと?」問題。

定理を証明したなどときの「なるほど、そうだよね、それしかあり得ないよね!」という感覚があります。

数学の専門家でなくとも、中学や高校レベルの数学でも味わえるものだと思います。私自身は、中学生のとき、はじめて自分で三平方の定理を証明できたときの、「おお、わかった!」という体験を、いまでも不思議と覚えています。

 

本書でハッキング氏は、主にこの二つの不思議、つまり「応用」と「証明」という二つの謎をめぐって、数学の哲学が存在してきたといいます。

 

プラトンに始まる古今の哲学者から、親交のある現代数学者の見解まで、ありとあらゆる哲学者・数学者を登場させ、紹介・論評をしてゆきます。

 

「○○主義」「××主義」などと、考え方の系譜は一応区分されるのですが、○○対××の論争が気づいてみたら△△対××にシフトしていたり、いつの間にか○○主義の人が××的な主張をして××主義の人が○○的な主張しているアベコベな状況になっていたりと、とにかく「数学の哲学」の展開が一本道ではないことがわかります。

 

ハッキングさんの語り口も独特です。

「そもそも証明って言っても、ライプニッツ的証明とデカルト的証明があってね」「数学の応用というけれど、それには7種類くらいあってね」などなど。私たちが無自覚に使っている概念のもつ複雑さを暴いてみせます。

 

それにしても難しい本です。

1章ずつ、気になるところから読むのがいいかもしれません。

本書を読み終えても、決して「数学を哲学したい気分」の原因となった「謎」は解消しません。人間の知性の最もピュアな部分の真相に触れることを期待して本書を手に取った私は、いかに事態が入り組んでいるかを知り、眩暈を覚えました。

ただ、これはちょっとおかしな感想かもしれませんが、本書を読んで、ちょっと安心しました。本書で登場するような錚々たる数学者・哲学者たちが議論を重ねてきたにもかかわらず「数学の謎」は、謎のまま残されている。本書の言葉でいえば、「数学の哲学は永続的である」。自分が素人として持っていた「数学を哲学したい気分」は、決して自分の無知ゆえだけでないことがわかり、ちょっとほっとしたところがありました。

 

「数学の哲学」について、もう少し体系的に整理することを指向して書かれた解説書としては、下記がおすすめです。本書と合わせて読まれるとよいかもしれません。 

数学を哲学する

数学を哲学する