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読書メモなど

読書メモ:佐藤文隆先生の量子論(佐藤文隆 著)

 

突然ですが、量子力学の解釈問題についてどう思いますか?

 

……と聞かれて、もし、言いたいことが山ほど脳裏を駆け巡ったなら、これはあなたのための本です! ぜひ『佐藤文隆先生の量子論』を読みましょう(笑)。

量子力学の解釈問題についてあれこれ悩んだことがある、数冊本を読んだことがある、それでもどこかでモヤモヤと気になり続けている、そういった人のための本になっています。逆に言うと、「量子力学の解釈問題などもはや存在しない」という境地に達していて、かつ、冒頭の質問をされても心拍数が一切上がらなかったような物理学者のかたには、読む必要がない(著者の問題意識が理解できない)かもしれません。

著者は、宇宙論相対性理論を専門とし、分野を率いてきた理論物理学者の佐藤文隆氏。2001年に京都大学を退官してからは、科学史や哲学的観点も取り入れた広い見地から論筆をされており、とくに量子力学については著書が多くあります。私も『量子力学イデオロギー』『量子力学は世界を記述できるか』(2冊とも青土社)などを読んで佐藤先生のファンになっていたので、本書も迷わず買いました。

 

さて、今回は横書きのブルーバックスというフォーマットです。目次は次のようになっています。

第1章は、量子力学がいかに成立しアインシュタインがどう反論したかという、よくある黎明期の歴史紹介。第2章では量子力学の入門的内容をコンパクトにまとめ、第3章にて量子力学の奇妙さを実証した数々の実験を紹介していきます。第4章では様々な「解釈」の整理し、著者の本書における中心的主張がなされます。第5章では、量子力学の解釈問題を語る上で重要な概念を多く編み出したジョン・ホイラー(Wheeler)について触れ、終章にてさらに主張を展開するという構成になっています。

このように、著者がのびのびと書いたことを思わせるユニークな一冊です。途中でホイラーへの追悼文が丸々掲載されていたり、1930年代生まれの著者だからこそ知りうるエピソードが挿入されていたり、写真や図表が多いのも楽しいです。第2章~第3章の物理の解説の部分も、他書にないわかりやすい説明がなされていて、量子力学の勉強をするうえでも役に立つのではないかと思います。

とはいえ、やはり一番の見どころは本書の「中心的主張」の部分になります。

それはどんな主張なのでしょうか。

佐藤先生が量子力学を語る動機が重要です。前提として、

  • 量子力学の解釈問題など、いまさら悩むべき問題か?

という論点があります。これに対する多くの物理学者の答えは、私も学部のころ物理学科で学んでいたのでわかるのですが、「NO」のようです。「たしかに量子力学の理論には、われわれの頭には理解しがたい不思議な点があり、理論のなかには「解釈」で埋めなければいけないようなギャップがあるのも事実。しかし、量子力学はできてから90年間、間違っていると証明されたことはないし、ますます多くの実験が正しさを証明している。ならば自然はそういうものだと認めて、その先の応用などに進むべきではないのか?」という見方です。

それに反して佐藤先生は、「解釈問題を考えるのは大事」という立場をとります。ただしその理由は、かつてのアインシュタインや現在のごく少数(ロジャー・ペンローズなど)の物理学者のように

  • 量子力学は不完全であり、より完全な理論を求めるべきだから

でもなければ、多くの解釈問題関連の本の著者が目論むように

  • 量子力学の奇妙さを少しでも解消するようなよりよい「解釈」があるはずだから

でもありません。

では何が理由なのか。こんなふうに書いています。

本書は、解釈問題には大事なものがあるという立場だが、それで量子力学の数理理論そのものが変わるというよりは、端的に言って科学を外から位置付ける話に関係しているというものである。それは、自然科学の専門的研究とは何をやっているのか、あるいは、社会の様々な営みのなかで科学は何を担っているのかといった、こういう科学のメタ理論に関係するという立場である。(p.154)

かみ砕くと、量子力学は「科学そのもののイメージを変える」ポテンシャルをもってもおり、イメージが「どう変わるのか」を理解するためにこそ、「解釈問題」について一度深く考えておくことは役に立つ、というようなことだと思います。具体的に量子力学を通して科学のイメージがどう変わるかということについては、本書では

など、佐藤先生ならではの言葉遣いを駆使して語られています。これらの意味を解説することは現時点の私の力に余るのですが、まさにこの意味するところを行間から読み解くのが、本書の読者の宿題となっていると感じます。

量子力学の解釈問題については、いま関連書籍を読んで勉強中でもあるので、もう少し頭を整理して、あらためてブログに書きたいと思っています。