重ね描き日記(rmaruy_blogあらため)

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読書メモ:おさなごころを科学する(森口佑介 著)

 

おさなごころを科学する: 進化する幼児観

おさなごころを科学する: 進化する幼児観

 

図書館の「子育て本」コーナーで何気なく手にとった本。斜め読みですませるつもりが、予想外にしっかりした本で、しかも抜群の面白さだったため、時間をかけて読むことに。

いま、誕生後2か月の娘と一緒に暮らしている。お世話することにはだいぶ慣れてきたものの、泣いたり笑ったりいる赤ちゃんが何を考えているのかは、いまもって全くわからない。育児書には「赤ちゃんは周りがちゃんとわかっています。どんどん話しかけましょう」などと書いてあるけれど、すんなりと納得はできない。

本書は、発達心理学者が、乳幼児の心の研究の歴史から最先端の知見までを、非専門家に向けて解説した一冊である。

本書で扱うのは、主に乳幼児です。乳幼児は十分に言葉が発達していないので、自分の考えや気持ちを直接的に表現することができません。また、かつて私たちは乳幼児であったにもかかわらず、その頃のことを覚えていません。そのため、かつては、乳幼児は知ることも、考えることもできないとされていました。このような乳幼児が実際には何を考えているのかを調べることは、非常にエキサイティングな試みなのです。(はじめに)

訳知り顔の育児書と違って、本書は「赤ちゃんの心はわからない」ことを前提にして書いてくれている。

本書では、おさなごころについての見方を「乳幼児観」という言葉で表現し、乳幼児観の歴史的変遷と筆者の乳幼児観を述べます。その際に、本書では、理論、証拠、方法論の3点を考慮します。(はじめに)

本書では「乳幼児観」がキーワードになっている。耳慣れない言葉だが、読み進めるにつれ、これしかないと思えるようなピッタリの言葉に思えてくる。赤ちゃんの心は簡単にはわからないのだから、研究者や時代によっていろいろな「見方」=「乳幼児観」があるのだ、という視点に著者は立つ。種類の異なる乳幼児観を分かりやすくカテゴライズして章分けし、それぞれの代表的な実験や理論を解説している。

  • 1章:「無能な乳幼児」 発達心理学以前の、乳幼児は基本的には何もできない無能な存在だとする乳幼児観。
  • 2章:「活動的な乳幼児」 ピアジェらによる乳幼児の観察により得られた、さまざまな段階を経て発達するとする乳幼児観。
  • 3章:「かわいい乳幼児」 養育者の行動を引き出す無意識の行動など、乳児と他者の関係に着目した乳幼児観。
  • 4章:「有能な乳幼児」 ピアジェ以降、視線計測などの実験を通して実は論理・数・統計など様々な能力をもつことが明らかになってきてからの乳幼児観。
  • 5章:「社交的な乳幼児」 乳幼児が他者の心を理解する能力に着目した乳幼児観。
  • 6章:「コンピュータ乳幼児」 記憶容量や情報処理能力など、コンピュータとのアナロジーで心の発達を記述する乳幼児観。
  • 7章:「脳乳幼児観」 脳の神経系の発達の研究や、脳活動測定から見えてくる乳幼児観。
  • 8章:「仮想する乳幼児」 空想上の友達と遊ぶ行動などに着目し、そうした行動の適応的な意義を進化心理学的に位置づける乳幼児観。

「赤ちゃんはこういうもの」という観念は、新しい実験手法や実験パラダイムの登場によってかなり劇的に変わっていくものであることがよくわかった。

発達心理学に興味のある人はもちろん、「赤ちゃんって何を考えているんだろう?」という漠然とした関心を持っている人にとっても、一読の価値のある本だと思う。