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読書メモ:ものづくりの反撃

 

ものづくりの反撃 (ちくま新書)

ものづくりの反撃 (ちくま新書)

 

企業論や生産管理を専門とする経済学者3名による、日本の製造業についての鼎談と書下ろしをまとめた一冊。今月はちくま新書に「おっ」と思うようなタイトルが多い印象だ。

「日本のものづくり」というと、どうしても「凋落」というイメージが付きまとう。半導体・家電・スマホの分野で海外に遅れをとった、これからはサービス・金融・ITの分野に軸足を移すべきだ。そう聞くと、なんとなくそうなのかなという気がしてしまう。また、ドイツ発のインダストリー4.0やIoTが製造業を一変させるんだ、などと聞くにつけ、日本が完全に置いてかれているかのような印象も受ける。

しかし、そうしたイメージは間違っているよ、というのが本書のメッセージだ。確かに電気機器分野は衰弱しているが、一方で輸出の好調な分野もある。日本の強みは、本書で多用される言葉でいうところの「現場」、つまり、それぞれの工場の生産性の高さにある。少し前までは、中国との賃金の格差があまりにも大きくて、どんなに日本の「現場」の生産性を高めても負けてしまう状況だったが、中国の賃金も上がってきたので、日本の工場の競争力は今むしろ高まっている。それが、産業論を専門とする経済学者たちのリアリティであるようだ。

ではインダストリー4.0などの迫りくる波についてはどうかというと、著者の一人はこのように書く。

確かに大きな変化の可能性はあるので、日本の企業や現場も十分な備えは必要だが、いくらなんでも「第4次産業革命」は大げさすぎると思います。すでに言ったように、20世紀のコンピュータや電子制御の出現を起源とする第3次産業革命が、上空におけるインターネット革命、地上におけるFA〔Factory Automation〕進化をもたらしたのはそのとおりですが、これらはあくまでも「3.0」の流れで起こった2系統の技術革新の流れです。仮に上空(ICT)と下界(FA)が再融合するとしても、それは依然として「インダストリー3.0」のなかではないでしょうか。(p.129)

「4.0」は多分にドイツが戦略的に言い出した「プロパガンダ」の面があって、それに右往左往するべきでない、ということのようだ。

とにかく日本にある現場=工場を大事にして、その生産性を高め続けることが日本の進むべき道であり、人工知能とかIoTとかで「すべてが変わる」式の言説に惑わされずに、地道に高効率の生産ノウハウを武器に世界の競争を戦っていくことこそ肝要である。本書の主張をざっくりまとめるとこんな感じだろうか。

まあそんなものかな、とも思った。一方で、その「現場」にいる当事者たちはそんなに楽観的でいられるだろうか、とも思う。

日本の生産現場というのはそれほど優れたものなんだろうか。僕がまともに見たことがある「現場」は、アルバイトで働いた物流倉庫や冷凍食品の工場、あるいは農家であって、本書で扱われているような製造業の工場ではないが、少なくとも、僕が目にした「現場」はどこもみんな疲れていて、なおかつ流動性が高い労働力に頼っていて、生産性がすごく高いようにも見えなかった。もちろん、日本の大企業の工場なんかは全然違うのかもしれない。とても高性能な機材を、考え抜かれたプロセスで、スキルの高いプロ集団が使いこなしているのかもしれない。だけど、自分が例えばその中で働いているとして、「人工知能とかIoTとは気にしないで、あなた方の仕事に誇りをもって頑張ってください」と言われたとして、果たして安心できるだろうかと思う。10年後の自分は大丈夫か、この「現場」にいて大丈夫なのかと、不安な気持ちは変わらないのではないかという気がしてまう。……もっとも、そういう無根拠な不安感を解消するのが、この本の狙いであるわけなのだけど。