重ね描き日記(rmaruy_blogあらため)

読書メモ、探究メモなど。

学問について考える

開催記録:オンライン勉強会「AI科学を哲学する?」(w/高木史郎さん)

2024年4月4日に、独立研究者の高木史郎さんとともに、オンライン勉強会「AI科学を哲学する?」を開催しました。以下はその簡単な記録です。 開催の経緯 発端は、昨年末に高木さんがArxivに投稿されたプレプリント論文でした。機械学習の研究者として、自律的…

読書メモ:学術出版の来た道(有田正規 著)

学術出版の来た道 (岩波科学ライブラリー 307) 作者:有田 正規 岩波書店 Amazon 何気なく手に取ったこの本、非常に面白く、ためになる内容だった。タイトルに「学術出版」とあるが、「学術書」というよりは「学術誌」(いわゆる「ジャーナル」)が主題だ。 …

読書メモ:不定性からみた科学(吉澤剛)…科学の「暗さ」を見つめ、科学を語り合う

不定性からみた科学―開かれた研究・組織・社会のために― 作者:吉澤 剛 名古屋大学出版会 Amazon 科学の語りがたさを語る教科書 科学とは何か。科学で何がわかるのか。自分たちにどんな恩恵があるのか。どうやって推進すべきなのか。誰が責任をもつのか。大…

【再掲】読書メモ:数学に魅せられて、科学を見失う(サビーネ・ホッセンフェルダー)

数学に魅せられて、科学を見失う――物理学と「美しさ」の罠 作者:ザビーネ・ホッセンフェルダー 発売日: 2021/04/09 メディア: Kindle版 ”Lost in Math"の待望の翻訳。原書の読書メモを再掲します。Sabine Hossenfelder氏は、物理学者にして科学ライター。中…

読書メモ:The Science of Science (Dashun Wang, Albert-László Barabási) …「科学的生産性の科学」の到達地点

The Science of Science 作者:Wang, Dashun,Barabási, Albert-László 発売日: 2021/03/25 メディア: ハードカバー ネットワーク科学の第一人者として知られるラズロ・バラバシと、組織論を研究するDashun Wangによる共著書。タイトルのScience of Science(…

読書メモ:科学とはなにか(佐倉統 著)…科学技術を「生態系」として語る

科学とはなにか 新しい科学論、いま必要な三つの視点 (ブルーバックス) 作者:佐倉 統 発売日: 2020/12/17 メディア: 新書 2020年はとくに「科学とはなにか?」を考えたくなる一年だった。 感染症対策で専門家会議や分科会が組織され、連日テレビには様々な科…

掬読メモ:独学大全(読書猿)…独学はブートストラップできる

独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法 作者:読書猿 発売日: 2020/09/29 メディア: 単行本(ソフトカバー) 『アイデア大全』、『問題解決大全』の著者として知られる市井の著述家、読書猿(どくしょざる)氏による新刊。前著の…

読書メモ:一人の科学ファンとして『ブルーノ・ラトゥールの取説』(久保明教)を読む

記:丸山隆一(@rmaruy) ブルーノ・ラトゥールの取説 (シリーズ〈哲学への扉〉) 作者:久保明教 発売日: 2019/08/09 メディア: 単行本 久保明教による『ブルーノ・ラトゥールの取説』(以下、『取説』)は、ブルーノ・ラトゥールという哲学者の著作について…

思考整理メモ:「科学」と「人生の問題」の関係はどうなっているのか?

※下記は、ここしばらく考えていることをまとめた、ラフスケッチとしての文章です。まだまだ考えが至らない点があると思いますので、ご批判・コメントをいただければ大変幸いです。 ※誤植修正や表現の改善等の微修正は今後も行う予定です(4/22) 科学の二面…

開催記録メモ:「会わない(読んで書くだけの)読書会」という試み

先月、ふとした思いつきで、とある「読書会」を企画しました。題して、「会わない(読んで書くだけの)読書会」。その名のとおり、「会わずに、オンラインで」読書会をしてみようという試みです。これが、やってみると面白かったので、ここに体験談として書…

読書メモ:〈現実〉とは何か(西郷甲矢人・田口茂 著)…固着した探究から、自由な探究へ

〈現実〉とは何か (筑摩選書) 作者:西郷 甲矢人,田口 茂 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2019/12/13 メディア: 単行本(ソフトカバー) 著者は、数理物理学者の西郷甲矢人氏と、現象学者の田口茂氏。分野も世代も違う二人だが、あとがきによれば両者は9…

読書メモ:The Physicist & the Philosopher (by Jimena Canales)…アインシュタインとベルクソンは時間をめぐって何を争ったのか

The Physicist & the Philosopher: Einstein, Bergson, and the Debate That Changed Our Understanding of Time 作者:Jimena Canales 出版社/メーカー: Princeton Univ Pr 発売日: 2015/05/26 メディア: ハードカバー 科学史家ヒメナ・カナレス(Jimena Can…

物理学者と哲学者は「時間」を語ってどうすれ違うのか…『〈現在〉という謎』を読んで

〈現在〉という謎: 時間の空間化批判 作者: 森田邦久 出版社/メーカー: 勁草書房 発売日: 2019/09/27 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 物理学者と哲学者によるシンポジウムをもとに企画された論考集。各章では時間論、とくに「現在」の概念を巡…

読書メモ(勉強モード):Understanding Scientific Understanding(by Henk W. de Regt)~理解できないものを理解するために、まずは理解を理解する~

科学というのは、その成り立ちや動作原理が未知の対象――宇宙、生命、脳など――を「理解する」ための営みと言える。だが、ときに「科学的に理解するとはどういうことなのか」がわからなくなることがある。本ブログでは、一貫してそれについて考えてきた。 どう…

非研究者として『在野研究ビギナーズ』を読んで考えたこと

今月出た『在野研究ビギナーズ』を読んだ。大学や研究機関に籍を置かない14名の「在野」研究者たちが、自身の日々(生活と研究の両立)について、そして自身の研究観について綴った一冊。 ともかく著者たちは皆、腹が据わっている。自分のやりたいことが明確…

読書メモ(勉強モード):なぜ科学は多元的であるべきなのか(Hasok Chang, "Is Water H2O?", 第5章)

Is Water H2O?: Evidence, Realism and Pluralism (Boston Studies in the Philosophy and History of Science Book 293) (English Edition) 作者: Hasok Chang 出版社/メーカー: Springer 発売日: 2012/05/23 メディア: Kindle版 この商品を含むブログ (1件…

視聴メモ:「科学と科学哲学――はたして科学に哲学は必要なのか?」…必要、ただし困ったときだけ(?)

先週の金曜日、下記のイベントが行われた。 伊勢田哲治×三中信宏 司会=山本貴光「科学と科学哲学――はたして科学に哲学は必要なのか?」@ゲンロンカフェ 2019年2月22日 科学哲学者の伊勢田哲治先生(以下、伊勢田氏)と、生物系統学を専門とする三中信宏先…

どんな問いが人を研究に駆り立てるのか(ケース:9年前の自分の場合)

私が常に興味があることに一つに、「研究者がどんなモチベーションで研究に向かっているのか」というのがある。何かの「専門」をもつ人と話すとき、「なぜその分野を選んだんですか?」と必ず聞いてしまう。相手がその道四十年の教授であっても、研究室に配…

読書メモ:「人工知能」前夜(杉本舞 著)…本気の科学史からAIを考える

「人工知能」前夜 作者: 杉本舞 出版社/メーカー: 青土社 発売日: 2018/10/19 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 1940~1960年代の計算機科学と人工知能の研究史をたどった一冊。著者の杉本舞氏は20世紀の科学技術史、とくに1930~1950年代のコン…

読書メモ:文系と理系はなぜ分かれたのか(隠岐さや香 著)

文系と理系はなぜ分かれたのか (星海社新書) 作者: 隠岐さや香 出版社/メーカー: 星海社 発売日: 2018/08/26 メディア: 新書 この商品を含むブログ (2件) を見る なぜだか知らないけれど、僕らは人を文系と理系に分ける。僕の父は理系で母は文系。僕自身は…

読書メモ:Lost in Math(by Sabine Hossenfelder)……美の追求が、物理学を袋小路に追い込んだのか?

Lost in Math: How Beauty Leads Physics Astray 作者: Sabine Hossenfelder 出版社/メーカー: Basic Books 発売日: 2018/06/12 メディア: ハードカバー この商品を含むブログを見る 直訳に近い日本語のタイトルをつけるとしたら、『数学に迷い込んで――美の…

読書メモ:数学がいまの数学になるまで(Zvi Artstein著)

数学がいまの数学になるまで 作者: Zvi Artstein,落合卓四郎,植野義明 出版社/メーカー: 丸善出版 発売日: 2018/03/30 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログを見る 人生で何度か、「数学は好き?」と聞かれたことがある。 そのたび、困っ…

読書メモ:数学セミナー(2018年4月号)…人はなぜ数学するのか?

数学セミナー 2018年 04 月号 [雑誌] 出版社/メーカー: 日本評論社 発売日: 2018/03/12 メディア: 雑誌 この商品を含むブログ (1件) を見る 今回は雑誌の感想です。 『数学セミナー』の最新号、特集テーマが「なぜ数学を学ぶのか」。 自分で数学をするよりも…

読書メモ:近代日本150年―科学技術総力戦体制の破綻(山本義隆 著)

近代日本一五〇年――科学技術総力戦体制の破綻 (岩波新書) 作者: 山本義隆 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2018/01/20 メディア: 新書 この商品を含むブログ (2件) を見る 今年は、明治維新から150年目だという。言われてみれば、という感じだ。 150年と…

(簡易的)読書メモ:文学問題(F+f)+(山本貴光 著)

文学問題(F+f)+ 作者: 山本貴光 出版社/メーカー: 幻戯書房 発売日: 2017/11/24 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (4件) を見る 以下は、とある会合の「おすすめの本の紹介文」として書いた文章。初読の印象だけの感想なのですが、記録のためにここに…

読書メモ:Mathematics Without Apologies(by M. Harris)…数学者のパトスとは?

Mathematics Without Apologies: Portrait of a Problematic Vocation (Science Essentials) 作者: Michael Harris 出版社/メーカー: Princeton Univ Pr 発売日: 2015/01/18 メディア: ハードカバー この商品を含むブログを見る マイケル・ハリス(Micheal H…

思考整理メモ:科学コミュニケーションから考える量子力学の解釈問題(後編)

中編からの続きです。 量子力学の解釈問題について、いまの専門家たちは何と言っているか(続き) ●「うまくいっているのだから、認めよう」派 筆者は、大学2年生のときに、はじめて量子力学の講義を受けました。 その講義の先生は「量子力学にはいろいろと…

思考整理メモ:科学コミュニケーションから考える量子力学の解釈問題(中編)

前編からの続きです。 はじめに、「量子力学の解釈問題」のあらましを簡単に振り返っておきたいと思います。 量子力学では、なぜ「解釈」が必要になったのか? 前編にも書きましたが、量子力学には「解釈」があります。 考えてみれば不思議です。物理学の「…

思考整理メモ:科学コミュニケーションから考える量子力学の解釈問題(前編)

ノーベル物理学賞が発表されたばかりで、世間的には「重力波」がトレンドなのかもしれませんが、今回は「量子力学」がテーマです。とくに「量子力学の解釈問題」について、近頃考えたことを書いてみたいと思います。 量子力学について、みんな違う意見を持っ…

読書メモ:佐藤文隆先生の量子論(佐藤文隆 著)

佐藤文隆先生の量子論 干渉実験・量子もつれ・解釈問題 (ブルーバックス) 作者: 佐藤文隆 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2017/09/20 メディア: 新書 この商品を含むブログを見る 突然ですが、量子力学の解釈問題についてどう思いますか? ……と聞かれて、…